子どもを抱えて片手で読書

妹もそうですが、夫も本好きで、黙っていたらずーっと読んでいる人。私も負けずに読みたいので(笑)、7カ月の子どもを抱っこしながら、片手で本を読む毎日です。さらに絵本の読み聞かせも加わりました。『木を植えた男』は、夫が「自分も大好きな本だし、子どもに読ませてあげたい」と選んでくれた一冊です。あらすじは、荒廃した土地に、ただひたすら何年も地道に木を植え続け、結果的に森を再生し、街と人々に活気を与えるという、偉大なことを成し遂げた老人の話です。老人は木が育ちにくいことを知りつつも、粛々と100個の種をまき続けます

『木を植えた男』ジャン・ジオノ 原作 フレデリック・バック 画 寺岡 襄 訳

今まさに直面している子育ての意義をここに見いだせます。オムツを替えて、ミルクを与えて、寝かしつけて、と続く毎日に身を投じていると、生産性が感じられず、疲れてしまうことがあります。でも今は辛抱強く子育てを続ける時期なのです。子どもが立派に成長したときに、私はきっと『木を植えた男』を思い出すでしょう。文章が子どもには難しすぎるので「ここには誰もいないねえ」などとかみ砕くようにして話しかけていますが、いつか原文のままで理解してくれることを心待ちにしています。成長した子どもたちの将来が、絵本と同じように、人々が笑い合う豊かな世の中であってほしいと願って。

●松尾依里佳さんのバイブル

▼BOOK

『木を植えた男』ジャン・ジオノ 原作 フレデリック・バック 画 寺岡 襄 訳

1913年フランス、プロヴァンス地方の山道を歩いていた旅人は、不毛の地にドングリを植え続ける男に出会う。長い年月を経て、同じ地を訪れた旅人が見た風景は激変。●あすなろ書房/1456円

『蒼穹の昴』浅田次郎 著

中国清朝末期、極貧の生活を送っていた春児。占い師の予言を信じて、科挙の試験を受ける幼馴染みの文秀を慕って都に上る。宦官となった春児は西太后の寵を受け、文秀は黄帝を支える若手官僚の中心となり、敵味方に分かれてしまう。●講談社文庫/640円

▼MOVIE

『グラン・トリノ』監督:クリント・イーストウッド/2008年/アメリカ

グラン・トリノとは、アメリカの自動車メーカー「フォード」の車種のこと。フォードの自動車工として50年勤めたコワルスキー。妻を亡くし孤独な暮らしだったが、隣家の少年タオが、愛車グラン・トリノを盗もうとすることから、彼の生活に変化が起きる。●Blu-ray2381円、DVD1429円/ワーナー・ブラザースホームエンターテイメント

『サマーウォーズ』監督:細田 守/2009年/日本

世界中の人々が集うインターネット上の仮想世界「OZ(オズ)」。ユーザーはPC、携帯電話などから自分のアバターを操って、ショッピングや納税などを行っていた。ある日OZの保守点検をしていた健二の携帯電話に謎の数字の羅列が送られてきて……。●期間限定スペシャルプライス版Blu-ray2759円、DVD1833円/バップ スタジオ地図作品

※本稿は、「プレジデントウーマン」(11月号)の特集「大人の教養『本&映画』ガイド」の掲載記事を再編集したものです。

松尾依里佳(まつお・えりか)
バイオリニスト・タレント
1984年生まれ。4歳からバイオリンを始め、京都大学在学中にステージデビュー。2006年のテレビドラマ「のだめカンタービレ」(フジテレビ系列)に「のだめオーケストラ」の一員として参加。10年から7年半、「探偵!ナイトスクープ」(朝日放送系列)の秘書を務めた。

構成=東野りか 撮影=吉澤健太