『グラン・トリノ』が重いテーマの作品だったので、もう1つは家族全員で楽しめる痛快な『サマーウォーズ』を挙げました。人間がAI(人工知能)と戦うテーマで、今まさに私たち人類が直面している状況を描いています。9年前のアニメ映画ですが、ハッキングで世界が脅威にさらされたり、原発の施設が狙われて世の中が危機に直面したりという出来事は、もしかしたら現在のほうがよりリアルに感じられるかもしれません。AIに我々の知性がどこまで対抗できるのかという問題も。でも、AIがどんなに進化しようと私たち人間の知力が総力戦でぶつかれば、ものすごいパワーが生まれるというシーンに前向きな気分になれます。見終わった後の爽快感も格別です。

『蒼穹の昴』浅田次郎 著

映画は自分のものとは違う人生を疑似体験できるので、いい気分転換になります。特に名作は、今の自分はこれでいいのかと考えるきっかけをくれたり、人を信用するとか、誰かのために生きるということの尊さを、教えてくれたりすることもあります。自分の足もとを見直すいい機会になりますよね。

ぐいぐい引き込まれた浅田次郎の歴史小説

「お姉ちゃん、これ読んでみて!」と妹にものすごい勢いで薦められた本が『蒼穹(そうきゅう)の昴(すばる)』です。読書好きの彼女がそんなに言うのならと読み始め、4巻もある分厚い文庫本なのに、あっという間に読んでしまいました。作者の浅田次郎さんならではの卓越したストーリーテリング、物語への引き込み方が見事。中国の清朝時代、最下層の生活から抜け出すために宦官(かんがん)になった主人公の、血を吐くような努力で自分の道を切り開いていく様子は、予想以上に感動してしまいました。激動する歴史の流れに巻き込まれ、報われるかどうかもわからない努力をした主人公のように、果たして自分はできるだろうか。いやいや、きっとできるはずだと鼓舞された作品でもあります。

私の身近なところでも、とてつもない努力が実を結んだ例がありました。私の出身大学は音大ではなく総合大学だったのですが、先輩が人類の進化について、画期的な新説となる論文を発表したのです。その先輩は頻繁にヨーロッパやアフリカに発掘調査に行くので、日本では奥さまが小さい2人のお子さんと数カ月も家を守っているそう。家族のサポートもあって、彼の並々ならぬ努力が形をなしていくわけです。でも帰国すると「僕がいない間に、子どもの関西弁がペラペラになった」(笑)などとうれしそうに語る、普通の子煩悩なイクメンに戻っている。そういう素の先輩の姿を見ると、自分だって高みを目指せるのではないかと励まされます。自分の道を地道に極めていけば、いつか、今までに見たことがない景色が見えるんじゃないかと……。

『蒼穹の昴』の主人公は、“昴”の星が導いてくれるから恐れずに生きていけと予言を受けます。じゃあ、私を導いた星はなんだろうと考えてみました。バイオリンと出合い、工藤先生に教えていただいたことはもちろんですが、テレビ番組「探偵!ナイトスクープ」で、7年半もの間「秘書」として出演できたのは星の導きだったのかも。この番組は故郷の大阪にいた頃、毎週金曜にバイオリンのレッスンがあり、帰宅後にお茶づけを食べながら、家族みんなでゲラゲラ笑い合って見ていました。「ああ、これで1週間が終わる」と、ほっとできる貴重な時間をくれた思い出深い番組だったのです。それまでも自分の音楽の活動を知っていただくためにいろいろなクイズ番組に出演しましたが、まさか、一家で大ファンだった番組に深く関われるようになるなんて! やはり、私は“昴”に導かれたとしか思えません。