無駄な治療はできるだけ省く
一方、がんの治療後に妊娠・出産を希望している場合には、抗がん剤治療やホルモン療法などの薬物療法が始まる前に生殖医療機関で話を聞き、卵子や受精卵の保存を検討する方法がある。がんの進行度や薬物療法の内容によって選択肢が変わる可能性もあるので、生殖医療機関に相談に行く際には、乳がん治療の担当医の紹介状を持参することが大切。
アンジェリーナ・ジョリーが卵管・卵巣を切除した理由
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)は、細胞のがん化を防ぐ抑制遺伝子「BRCA1」か「BRCA2」に、生まれつき異常(変異)があるため、若くして乳がんや卵巣がんになったり、両乳房にがんを発症したりしやすい。HBOCの人が乳がんになる確率は41~90%、卵巣がんは8~62%とされる。リスクは遺伝子変異のない日本人女性に比べて乳がんで5~10倍、卵巣がんで8~60倍も高い。HBOCかどうかは、血液検査でわかる。遺伝子検査は自費診療で、約20万円。「心配な人は、がんの遺伝カウンセリング(全国遺伝子医療部門連絡会議ホームページの遺伝子医療実施施設検索システムで調べられる)を受け、検査の必要性を検討することが重要」(大野医師)
特に卵巣がんは早期発見法がない。そのため、HBOCだとわかったら、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんのように、卵管・卵巣の予防切除を受けることが推奨されている。
「乳がん治療の最近のキーワードはデエスカレーション。無駄な治療は省き、必要なものはきちんと加えていくという発想です。例えば、乳房内からがん細胞が最初にたどり着くセンチネルリンパ節に転移があるかを、手術中か術前に調べ、転移が2個以下でしこりの大きさが5cm未満なら、わきの下のリンパ節を切除しないなど手術は縮小化しています。リンパ節を切除しなければ、腕がむくんで痛むリンパ浮腫になるリスクも減らせます」(大野医師)
乳がんの病院を選ぶポイントの1つは手術症例数が年間100例以上で乳腺専門医がいること。さらに、緩和ケアチーム、常勤の病理医、がん専門看護師あるいは乳がん専門認定看護師などがチームで乳がんの患者をバックアップする体制があるかどうかも重要なポイントだ。なお、ランキングにある50病院は、「乳腺専門医がいる」と日本乳癌学会が認定している施設である。
「乳がんになっても、ぜひ仕事は続けてください。慌てて治療を始める必要はないので、セカンドオピニオンも上手に活用し、各治療法の利点と欠点をしっかり理解し、納得して治療を受けましょう」