「しかし、13年に人工乳房を用いた乳房再建手術が保険適用になってから、その流れは再び大きく変わりました」と大野医師は指摘する。もともとの乳房と腫瘍の大きさによっては、無理に温存手術をすると、乳房が変形してしまう。そのため、無理な温存手術が減り、乳房すべてを切除して、乳房再建手術を希望する患者が増えたというのだ。

乳がんになったとき、頼れる病院はどこなのか。DPCを導入している全国1666病院のうち、16年4月~17年3月の乳がんの手術症例数の合計が多い順に50病院をリストアップ。ただし、用いた症例数合計は、入院治療を受けて16年度中に退院した患者のものであり、日帰り手術や外来での薬物療法・放射線療法を受けた患者の数は含まれていない。薬物療法は入院せずに外来で行うことも多いため、症例数は参考程度に見ていただきたい。

50病院の乳がん手術数の内訳を見ると、2つの手術の症例数は同じくらいか、乳房切除手術が温存手術を上回っている病院が多かった。

「乳房切除手術を受ける人の中には、乳房再建を希望する人としない人がいて、当院では40歳以下では6割、70代でも1割の人が再建手術を受けています。わきの下のリンパ節に転移があり、しこりが大きい場合には再発リスクが高いので、すぐに再建手術をせずに化学療法や放射線療法を行います。がんの大きさや進行度によっても選択肢は変わってくるので、それぞれの治療のメリット、デメリットをよく聞いて、自分の希望を担当医に伝えることが大切です」

がんの手術によって失われた乳房を再建する手術には、患者本人の腹部や背中の組織(自家組織)を胸に移植する方法と、人工乳房を用いる方法がある。また、再建の時期も、乳がんの手術と同時に実施する「一次再建」と、手術後しばらく経ってから行う「二次再建」がある。50病院の乳房再建手術の症例数は、人工乳房による再建と自家組織を使った二次再建の症例数を合わせた数値だ。なお、乳房再建手術の症例数が「-」の病院は、形成外科医による再建手術自体は、他の医療機関に紹介して実施しているとみられる。

『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2016年版』(金原出版)を参考に作成 イラスト=生駒さちこ

「人工乳房を用いた乳房再建に保険が適用されてから、再建手術を受けるかを含め、自分がどうしたいか考えて主体的に治療法を選ぶ患者さんが増えました」(大野医師)

なかには、がんが非常に小さく温存手術が可能でも、乳房切除手術と再建手術を選ぶ患者もいるという。その理由は、「少しでも乳房が残っていると不安」「5週間も放射線治療を受けると仕事に差し支えるから」など、患者によってさまざまだ。