千葉県知事の森田健作さん。父は警視庁の刑事。大変なときほど家にいませんでしたが、そんなとき母に守ってもらったといいます。母から学んだことは「先礼必勝」。とにかく、元気よく挨拶する。その重要さを教えてくれたといいます――。

※本稿は「プレジデントウーマン」(2018年7月号)の連載「母の肖像」を再編集したものです。

やる気をなくした私を立ち直らせた母の言葉

私は、1949年生まれで団塊の世代。子どもの数が多いから、必然的に競争率が高くなり、受験も大変。高校受験を前に、中学2年生になるとみんな家庭教師をつけたり、塾に通い始めたり……。うちはお金に余裕がなかったから、自力で勉強するんですが、思うように伸びない。先生からは、「このままでは就職するしかないぞ」なんて言われる始末。自分なりにがんばっているのに、結果を出せない悔しさから、だんだんふてくされるようになってね。「俺はバカでいいんだ」なんて、自暴自棄になってきたんですよ。ある夏の日、私が縁側でスイカを食べていると、母が「最近、元気がないじゃないか」と話しかけてきたんです。私の本名は“鈴木栄治(すずきえいじ)”というんですが、母は「栄治、人間はみんな必要があって生まれてきた。おまえにも良い部分が必ずある。それを見つけてがんばれ」と言うんです。でも、自分のいいところと言われてもわからないじゃないですか。続けて母は、「通信簿の備考欄にいつも『毎朝、元気に挨拶ができる』と書かれているのに、最近のおまえは暗くて声が出ていないし、声にハリもない。それじゃ、おまえのいいところが何も生かせていないということじゃないか」と言うんです。そのときは聞き流していたのですが、1カ月ほど経って、自分でも「そうだよな、俺は剣道をやったらいちばん強いしな。運動会で応援団の団長をやって、いちばんみんなを盛り上げるのは俺だ」と、思えるようになったんです。「勉強ができなくてもいいや、剣道を一生懸命やろう。元気なのが俺のいいところなんだから、いつもの自分に戻ろう」と、気持ちを切り替えることができたんです。すると、不思議なことに先生に褒められることも多くなってね。「鈴木はホームルームの時間、活発に提案をしてくれるから頼りになる」「剣道の試合で鈴木がまた勝ったそうだ、すごいな」とかね。褒められると気持ちがいいから、勉強も一生懸命やるようになるんですよ。すると、成績も伸びてきて……。でも、これには裏話があって、私が30歳を過ぎたころ、母が「実はあのとき……」と話してくれたのが、当時、やる気をなくしている私を見かねた父と母が話し合い、先生を巻き込んで、私をその気にさせるよう仕向けたというんです。芸能界に入っても、政治の世界に入っても、この“自分のいいところ”をいちばん大切にしてきたからこそ、今の自分があることを考えると、この出来事が私のすべての出発点。きっかけをつくってくれた母には感謝してもしきれません。

森田氏35歳ごろ、母・ぬい子さんとのツーショット。「私には反抗期というものがありませんでした。ここまで大きく育ててくれた親に反抗する理由なんてありませんよね。両親には感謝の言葉しかありません」