数値目標ということか。聞けば、その内容とは「家の整理整頓」「家のリフォーム」「鉄道旅行」「筋トレ」「水泳」「ピアノを習う」「時代小説を読む」「ぬか漬け」……。
「課題出しをしてマッピングするんです」
――マッピング?
「X軸とY軸をつくるんです。X軸のほうは左が生活で右がレジャー。Y軸は上が健康で下が教養。各課題をそこに点として落としていく」
――それで?
「X軸とY軸で区切るので4つの面になりますよね。落としてみたら各面がそれぞれ8個くらいの点になったんです」
うれしそうに語る南村さん。
――それが……。
だから何なのか、私にはよくわからなかった。
「これってバランスがいいってことなんです」
――そうなるんですか。
例えば、「筋トレ」は健康とレジャーで区切られた面。「ピアノを習う」はレジャーと教養の面。「ぬか漬け」は生活と健康の面。各面の点数が均等でバランスのよい定年後ということらしい。
「バンバン捨てました」
――それを順次こなしていくわけでしょうか。
「今取りかかっているのは、『家の整理整頓』。要するに片付けですね。母(88歳)とも同居しているので1階をバリアフリーにするつもりなんです。さらに耐震補強と断熱工事などもしたいので、とにかく家を片付けなきゃいけない」
彼女のマッピングによると、「家の整理整頓」の点は生活の線上にあるが、教養のほうにも少しかかっている。
「私は掃除は嫌いなんですけど、片付けは好きなんです」
会社員時代も彼女は整理分類が好きだったらしい。「保留引き出し」をつくり、とりあえずそこにすべてを入れておく。1週間寝かせて一気に分類し、使わない書類は即シュレッダーにかけたのだそうだ。
「はみ出しているものがそこに納まる、この『入った』という感じが好きなんです」
整理して収納することが趣味のようなのである。家の片付けにあたって、彼女はルールを定めたという。
(1)忘れているものは捨てる。
(2)思い出に耽らない。
服や日用品については原則1年を保留期間とし、1年間使わなかったら捨てる。そして捨てる際にいちいち何かを思い出さないようにする。定年退職の際、会社から表彰状をもらったが、それも「バンバン捨てました」とのこと。
――いいんですか、捨てても?
「思い出だけあればいいんです。モノがなくなっても思い出は残りますから」
モノはモノにすぎない。彼女にとって「片付け」とは、モノとそれに付随する思い出を切り離す作業なのである。