ベテランが教えるのはリスキー

まず教える人は、ベテランではなく新人と年齢や経験が近い人がいい。ベテランになるほど仕事は効率的にできるが、教えることが上手とは限らない。むしろベテランであるがゆえに、新人として間違えやすい部分を忘れている。これが経験の浅い人であれば、間違えやすい部分の記憶も鮮明であるから教えやすい。また聞く方も年齢が近い方が聞きやすいというものだ。

脱線するが、中小企業では、「教える」ということがまったく評価されていない。教えることが人事評価の要素になっていないと、誰も真剣に教える気にならない。たとえば、後輩が育ったことが賞与における評価要素になるとわかれば、教えることにも前向きになるはずだ。

“教え方マニュアル”のない会社は危ない

次のポイントは、教え方についてである。中小企業の問題は、人によって教え方にブレがあるということだ。このブレをできるだけ少なくすることが生産性を上げるうえで必要となる。その効果的な方法としては、社内でマニュアルを作成することだ。マニュアル作成は手間がかかるゆえに、必要とわかっていてもなかなか取り掛かることができないものだろう。作成を外注しても、なかなか納得できるものにはならない。

だが、マニュアルが整備されている会社とない会社では、新人の成長のレベルに格段の相違がでるのも事実だ。新人が一人前になって収益を生み出すまでには必然的に時間を要する。収益を生み出すまでの時間は、コストばかりかかることになる。収益力のある会社は、一人前になるまでの時間をいかに短縮させるかに執念を燃やしている。その道具としてマニュアルがあるわけだ。マニュアルとして立派なものである必要はない。私の顧問先では、技術について動画で撮影しているだけのところもある。要は相手に伝わればいいのだ。

「話を聞いてくれる」だけでいい

最後のポイントは、フィードバックだ。フィードバックとは、簡単に表現すれば一対一の面談のことである。新人が悩みを聞く時間などを、週に15分でもいいので定期的に確保しておく。はっきりいって、新人は緊張して何も回答できないことが通常だ。それでもいい。「この会社は話を聞いてくれる機会がある」ということが伝わればいいからだ。愛情の反対は無関心。人は関心を持ってもらえているとわかれば、安心感を得る。

採用したあと、ここまで注意しないといけないのかと感じる経営者もいるだろう。だが、時代とは気がつかないうちに変わっているものだ。環境が変わったのであれば、自社も変わるほかない。採用後のフォローを充実させることは、採用における企業のブランディングにもなるはずだ。ぜひ、自社オリジナルのフォロー体制を構築していただきたい。

しまだ・なおゆき 島田法律事務所代表弁護士。山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。「経営者に寄り添う相談者」として弁護士の枠にとらわれることなく経営者に必要なサービスを提供している。基本姿勢は、訴訟に頼らないソフトな解決であり交渉によるスピード解決を目指す。これまで経営者側として労働事件に関与してきた実績は、残業代請求から団体交渉まで200件を超える。