ハワイで知った、国産小麦を入れる意味

機械焼きのメリットと人の丁寧さを組み合わせた製法は、先代のころから始まったという。数もたくさん作れるようになり、いまでは朝の9時から夕方4時まで、店舗地下の作業場でどら焼きを焼き続ける。客足は絶えることがない。

ふと「レシピは創業当時のままなんですか?」とたずねると、「いやいやいや」と谷口さんはおもしろい話を聞かせてくれた。

そもそも創業時のレシピというのはないのだという。時代に応じて、工夫を重ねてきた味なのだ。他店では薄力粉で作られることが多いが、うさぎやでは中力粉と強力粉もブレンドしている。それにより軽快なだけでなく、もちっとした食感と粉のうまみも感じられる。しかし、「それだけがおいしさの秘密ではなかったんですよ」と谷口さん。

あるとき、ハワイでどら焼きの販売イベントを開催した。粉は現地調達し、自分たちでブレンドすればいい、ということになった。ところが試してみると、まったくおいしくない。職人たちをはじめ、みな首をかしげた。

実は、店では先述の粉の調合のほか、国産の小麦粉をブレンドしている。「昔はね、利根川のほうから担ぎ売りのおばあさんが、粉を売りに来ていたらしいんです。なので、現在の粉にも利根川流域の国産粉を混ぜることになったんです」と谷口さん。しかし、配合比率としてはそう多くない国産粉が、これほどおいしさに貢献しているとは、「ハワイでやってみるまで気づきませんでした。自分で言うのもなんですが、よくよくうちの味はうまくできてるなぁと、あらためて感心しましたね」と笑う。

だが、国産小麦や餡に使う北海道・十勝産の小豆を取り巻く状況は、後継者不足や環境の変化などでなかなか厳しい。「問屋さんや農家さんとの関係は大切です。毎年、十勝にうちのどら焼きを持って、足を運んでいます。おいしいものが作れなくなったら、どら焼きもやめなくてはいけないですから」と、このときは谷口さんの顔も引き締まって見えた。

気になる「日持ち」はどれくらい?

駅から徒歩3分だから、出張時にも便利。

谷口さんは「どら焼きは、朝生(あさなま)菓子ですから、朝作って当日中に食べるものなんです。うちのおいしい賞味期限は翌日まで。しっとり感を残すために温かいうちに袋に詰めていますから」と話す。

手みやげとしては賞味期限が短いと思われるかもしれないが、むしろそこにチャンスがある。「朝に焼いたものなので、お早めにどうぞ」とひとこと添えれば、わざわざ立ち寄って買ってきてくれたんだな、と相手に伝わる。「最中のようなかしこまった菓子折りに、どら焼きを添えて渡すのもいいと思いますよ」とは、谷口さんが教えてくれた上級テクだ。

地下鉄銀座線・上野広小路駅から徒歩3分。JR上野駅からも徒歩10分圏内。出張時でも行きやすい場所に店はある。

客先に向かう前に足を向けるのは面倒と思う人に、ここだけのおいしい話を。焼きたてのどら焼きは格別にうまい。店先で買ったばかりの温かいどら焼きをほおばるのは、買い行った人だけが味わえる役得だ。

▼店データ
「うさぎや」
東京都台東区上野1-10-10
電話 03-3831-6195
【商品】どら焼き
【価格】205円(税込み)
【販売】一つから/予約不要
【営業】9時~18時 水曜定休
※16時以降に来店する場合は、電話で取り置き注文しておくとよい
(撮影=岡山寛司)