これまで青天井だった残業時間に年間720時間(月平均60時間)の上限ができる。政府が3月末にまとめた「働き方改革実行計画」で定められたもので、政府は今秋の臨時国会に関連法の改正案を提出する計画だ。それに呼応するかのように、今年の春闘でもノー残業デーや定時退社などの残業削減策を労使で推進する動きが広がっている。
だが、業務の量やプロセスなど、根本的な見直しを進めなければ、「持ち帰り」や「早出」によるサービス残業が蔓延し、実労働時間は変わらない、という事態に陥る可能性がある。とくに早出残業については「残業代が支払われない」と勘違いしている社員や「社員が勝手に朝早くきて仕事をしているだけ」と考えている経営者は少なくない。だが、時間外労働の割増賃金は法定労働時間の8時間を超えれば、たとえ1分でも残業代を支払わなくてはならない。
なお「30分未満の残業は切り捨てていい」という誤解もあるが、毎日の1時間未満の残業時間は、1カ月分を累積して計算する。1カ月分の合計が30分未満の場合は切り捨てになるが、30分以上の場合は1時間として切り上げることになる。
企業は、実際に早出残業している社員に残業代を支払っているのか。早出残業の実態についてIT、建設業、食品業の3社の人事担当者による匿名座談会を開催した。

早出サービス残業は法的リスクが高い

――労働基準監督署の臨検(立ち入り調査)を受けたことがありますか。その場合、早出残業もチェックされるのですか。

【IT】じつは昨年末に臨検を受けたとき、数人の社員が月100時間を超える残業をしていたことがわかり、是正勧告を受けました。監督官から「是正しなければ社名を公表します」と言われ、急遽、緊急対策会議を開くなど社長以下役員も含めて大騒ぎになったんです。監督官には出勤記録やタイムカードの記録など全部を見せたので、何時に出社しているかも把握しているはず。ただ、そのときは早出している社員の残業代を支払っているかについては聞かれなかったと思います。

【食品】当社では以前、未払い残業代の件で調査を受けたことがあります。そのときに始業前に出社している社員に「割増賃金を支払っていますか」と聞かれたことがありますが、「会社としては始業時間前に来て仕事をすることは命じていませんし、部署によって管理職の指示で早出して仕事をする場合には適正に支払っています」と答えました。ただし実際に支払っているかどうかはケースバイケース。早出残業を認めるか否かは管理職によって違うでしょう。

【建設】当社としても終業後に残業した場合は必ず申告するように人事としては指示していますが、早出残業代については「積極的に申告するように」とは指示していません。社員の中には通勤電車が混むので早出する人もいれば、始業前に私用をすませたい人など様々な理由がある。でも中には前日の仕事を終わらせるために早出をしている人もいて、それは明らかに残業代の対象者です。正直にいえば早出残業はグレーゾーンであり、法的リスクも高いと思います。