配車アプリにより交通サービスの形態が大きく変動する背景には、運送機能の分化がある。従来、運送人は自ら施設管理、集荷・集客、従業員管理をしなければならなかった。今では、飛行機はリースで調達し、乗員は派遣会社に依頼し、顧客もインターネットで集客できる。この運送機能の分化現象の残された分野が、流し営業のタクシーなのだ。

日本と海外の大都市タクシーの大きな違いは「流し営業」と「車庫待ち営業」の在り方である。ロンドンでは、「車庫待ち」は公共交通機関とは認められず、自家用車の扱い。この車庫待ち営業は事前に顧客情報が入手でき、サービス内容も事前に確定できることから、スマホ配車の普及が進展しやすい。ミニキャブが普及する理由もそこにある。

日本は事情が違う。「流し営業」と「車庫待ち営業」の区分が法律上はなく、東京のタクシーは数が多すぎると問題にされるくらいであるから、流しで十分に対応でき、スマホで配車を頼むのが面倒なくらいだ。配車アプリが普及しない。しかし、配車アプリの普及した海外からの利用者にとって、自国でダウンロードした使い慣れたアプリによる配車サービスは、キャッシュレス化や言葉の障害を乗り越える利点があり、東京オリンピック後のビザ緩和時代にはそのニーズも高まるだろう。世界最大の人流大国・中国では、スマホ配車が当たり前であるから、東京でもスマホ配車ができない会社は生き残れないかもしれない。

では、なぜ海外投資家はこの配車アプリに巨額の投資をするのだろう。それはお迎えに行く時代を見越しているからだ。人流のビッグデータを握るものは、正確な予測のもと、先回りしてお迎えに行ける。それどころか、料理の注文まで先に把握してしまっているかもしれない。

Yooco Tanimoto=イラスト