どれだけ歩いただろうか、山の尾根に出た私たちは、反対側に向かって坂を下り、とうとう鋪装された一本の道路にたどり着いた。そこから町までは10km程度で、歩けない距離ではなかったが、問題は自転車だった。私に続き、リタ、そしてパトリックのタイヤまでがパンクしてしまっていたのだ。自転車を押して先を急ぎつつ、車が通りかかるたびにヒッチハイクを試みるも、外国人を無許可では乗せられないという理由から止まってくれる車は一台もなかった。

しかし残り5kmまで来たとき、ある農家の男性が私たちに声をかけてきた。彼の荷馬車に自転車を積んで、町まで走ってくれると言う。私たちは顔を見合わせた。どうやら、幸運が巡ってきたらしい。

3台の自転車と私たちを乗せて、荷馬車はゆっくりと進んだ。一面に広がるタバコ農園から吹いてきた風が、パトリックのシャツを気持ち良さそうに揺らし、その横でリタは「ヒッチハイクも随分やったけど、馬車は初めて!」とはしゃいだ。私は、昔ケニアのサバンナで見た巨大な虹の話をした。

ヒッチしたトラックで進むこと55時間。車はパンクと故障を繰り返し、私は発熱、脳しんとう、出血などのさまざまなアクシデントに見舞われた。そんなさなか、暴走するトラックの屋根にしがみつきながら目に焼き付けた奇跡があった。大空へ伸び上がるように弧を描いて、一筋の完璧な虹が現れたのだ。

「だから今日、タイヤがパンクしたときも、これはイケルと思ったよ」

2人は軽やかに笑い、それから、馬のひづめが路面を蹴る音に静かに耳を傾けた。