藤川さんの働く多摩工場は、同社の中でも50年以上の歴史がある。製造される製品は100種類にのぼり、なかでも瓶入りの「コカ・コーラ」が製造されているのは東日本では同工場だけ。彼女も就職活動で、その製造過程を見たときのことが印象に残っている。

「ラインを空の瓶がバーッと流れてきて、充填(じゅうてん)機を回りながら中身が詰められていく。それに次々と栓がされて、ザーッと出てくるのを見ていると、何だかわくわくしました。思えば私も大学の研究室では、よくあの赤い自販機でコカ・コーラを買っていました。世界中で親しまれている飲料を自分がつくるのは、ちょっと面白いかもしれないと思ったんです」

【上】コカ・コーライーストジャパン スーパーバイザー職の構成/全8工場では管理職であるスーパーバイザーの中で、女性は藤川さんただ一人。【下】仕事の必需品/キャップ型のヘルメットとつなぎのユニホーム。赤いロゴに、身が引き締まるという。

ただ、実際に2003年に配属された多摩工場は、文字通りの「男職場」だったという。

現在、工場で働く総勢209人のうち女性従業員は15人、藤川さんのいる品質管理の部署では、16人のうち半数が女性である。しかし、大学院で工学を学んだ彼女が製造職として配属された際、工場には女性エンジニアがまだ一人もいなかった。さらに社員の世代交代の時期でもあり、父親世代に当たる男性が半数を占めていた。

「今後は女性が現場でも活躍していくべきだから、逆境があっても頑張れ」

そう激励してくれる先輩社員がいる一方で、周囲の女性社員に対する戸惑いは深刻だったようだ。

「相手からすれば気を使っているだけだと思いますが、何をするにも『危ないから君は遠くで見ていればいい』と言われることもありました。女には機械がわからないし、そのうち別のオフィスワークをする部署に行くのだろう、という先入観があったと思います」

だが、それでは現場の仕事を覚えることができない。意気揚々と多摩工場に来た彼女にとって、それは最初の乗り越えなければならない「壁」だった。