【羽田】それで2015年は、受賞作の『スクラップ・アンド・ビルド』が1300円×印税10%×発行部数20万部で約2600万円。加えて、これまでずっと世間から無視されてきた(笑)、ほかの作品も文庫化され、本の収入だけで計3000万円くらいになったんです。

羽田圭介●作家。1985年、東京生まれ。明治大学商学部卒。2003年『黒冷水』で文藝賞を受賞しデビュー。15年『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞受賞。

【山崎】小説にしても小説以外の著述物にしても、産業としてみると著述業でお金を稼ぐのが難しくなっていますよね。しかし、売ることだけを目的に書くのではつまりません。

【羽田】普通に自分の書きたいことを書くより、売れる確率が高くなる方法は確かにあるんです。たとえば映像化しやすいような話の流れをつくるとか。でも、自分が小説を創作するうえでは、そういう考えに縛られたくありません。

【山崎】「ここだけは譲りたくない」というものは、どんな人にもあります。金融マンですらありますから。明確にわかる、コアとなるスキルや価値を確立し、動かさないことは何より大切でしょう。一方、正しいことばかり言っていて商売になるのかという問題は、現実には常にあります。

【羽田】そのためには、小説を書く以外の方法でもお金を稼ぎ、お金に困らない状況をつくることも一つの方法かなと思うんです。テレビにたくさん出演し本の宣伝をしつつ出演料で稼いでいるのも、その意味では役立っています。

【山崎】お金はあくまで将来の自由度を拡大する手段だと割り切ることは、大変いいことなのだと思います。次に考えたいのは、手段としてのお金とどう付き合うかという方法論ですね。