そのとき付けていた日記を読み返すと「死にたい」とか「死ぬ準備しなきゃ」という言葉が並ぶ。
「自分が書いたとは思えません。主治医にホルモン治療の副作用ではないかと確かめ、精神科にかかって抗うつ剤をガリガリかじりながら仕事をつづけました」
心身ともに厳しい状況だったが、ホルモン治療は5年間で終わる。それとともに、うつもなくなると予想ができた。ならば、この貴重な体験をしているうちにそれを役立てようと考え、産業カウンセラーの資格を取るため週末はスクールに通いはじめる。
すると「自分のつらさを話したくて入った」患者会から「手伝って」と言われ、社内からは「メンタルに詳しいんだったら、採用面接でどう振る舞ったらいいか教えて」と声がかかるように。
「自分の経験が誰かの役に立つと思うと、うれしかったですね」
そのときの経験が、他者をリスペクトするという現在の武田さんのスタンスにつながっている。
「最近よく言うのが、社員に過保護になるのではなく大人扱いし、どんどんやらせること。社員面談やがん患者支援のボランティアを通じ、どんな環境にあっても、人はみな成長する強さを持っていることを確信したからです。社員も厳しい環境でこそ自立する。宇都宮のときのように、いい意味で裏切ってくれるシーンをたくさんつくりたいと思っています」
■武田さんの経歴
1989年(21歳)入社。セゾンカウンターに配属
1990年(22歳)吉祥寺パルコ ショップマスター
1995年(27歳)関西営業所
1998年(30歳)宇都宮パルコ ショップマスター
2001年(33歳)本社へ異動/翌年、課長に昇格
2003年(35歳)営業計画部トレーニング課と人事部人材開発課の課長を兼務
2004年(36歳)がん告知、治療スタート
2008年(39歳)人事部長
2014年(46歳)取締役就任
■Q&A
■好きなことば
全機現(ぜんきげん)(禅の言葉で、すべての機能、能力が発揮されているさま)
■趣味
瞑想(めいそう)、断食
■ストレス発散
仲間との食事
■愛読書
『リーダーは自然体』増田弥生、金井壽宏著
澁谷高晴=撮影