価値あるスキルが未来をひらく

【原田】いつ、そのつらさを越えて、おもしろさを感じるようになったんですか?

【安藤】カリキュラムが終わって、データ分析ツールを使って仕事をし始めてからです。これまで使っていたソフトでは分析できない量のデータを集計・分析することができ、ほしい情報が得られたときに、「もっとできるようになりたい」と思いました。

振り返ると、社会人になってから身につけたスキルの中で一番価値があったと思います。戦略を立てようとするときに、自分で根拠となるデータを分析できないのは苦痛です。自分で仮説を立て、数字を分析して腑に落ちて初めて、戦略のプランニングにつながります。自分で数字を見ることができるようになったのは、本当に大きかったです。

【原田】CRMに対する見方は変わりましたか?

【安藤】前は「CRMは地味」と思っていましたが、今はまったくそう思っていません。CRMはここ10年で大きく変わりました。昔はCRMといえば、ダイレクトメールを送るのがメインで、分析の範囲も狭かったです。今は、Webでも一人ひとりに合わせたワントゥーワンのマーケティングが可能ですし、プロモーションやキャンペーンなど幅広いターゲットに向けた販売促進の手法に代わるものになってきました。

お客様との接点も、Webの履歴やメールだけでなく、LINE、アプリなどチャネルが増え、得られるデータ量も大きくなっています。お客様の姿を知ろうとすると、すべてのチャネルのデータをつないで分析しないといけません。それだけの量のデータをきちんと分析して、お客様へのサービスのために使えるようになりたいと、今、あらためて思っています。CRMの持つマーケティングの力は大きくなりました。「CRMが地味」と言っていた自分が恥ずかしいですね。

【原田】仕事において価値観が転換することは、得難い経験だったと思います。いま、将来の夢や、“野望”はありますか?

【安藤】私は30代のこれまで、仕事をすごく頑張ってきたつもりです。ずっと、何か専門性がほしいと思っていたんですが、やっと、自分でも「CRMの専門的な知識を持っている」と思えるようになりました。そう思えるようになったことは、本当にうれしいです。ただ、それを手に入れるために結婚と出産を諦めたわけではないので、結婚して子供もほしいですね。ただ、結婚して出産してからも、社会から離れるつもりはないです。仕事を続けるだけでなく、しっかりとしたキャリアを築きたい。そこまでできたら、「私の人生、よかったな」と思えるかもしれないですね。

■インタビューを終えて
安藤さん、ありがとうございました。仕事にも、人生にも、まっすぐに要望して真摯に取り組んでいく姿勢を尊敬しています。CRMというご自身の専門分野も、出会いは魅力的なものでなくても、根気強く向き合うことでご自身の自信の源になるまでに鍛え上げられました。このように、一見クールそうに見えても実は内側に熱いものを持っている、つくづくツンデレな安藤さんだなあ、と思って活躍を見守っています。引き続き、こんな風に壁は乗り越えられるんだよ、という姿を見せていてくださいね。
原田博植(はらだ・ひろうえ)
株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 アナリスト。2012年に株式会社リクルートへ入社。人材事業(リクナビNEXT・リクルートエージェント)、販促事業(じゃらん・ホットペッパー グルメ・ホットペッパービューティー)、EC事業(ポンパレモール)にてデータベース改良とアルゴリズム開発を歴任。2013年日本のデータサイエンス技術書の草分け「データサイエンティスト養成読本」執筆。2014年業界団体「丸の内アナリティクス」を立ち上げ主宰。2015年データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー受賞。早稲田大学創造理工学部招聘教授。

構成=大井明子 撮影=岡村隆広