「作業着ならワークマン」のイメージが定着していたワークマンが、新業態ワークマンプラスを出店し、大成功した。その仕掛け人、土屋哲雄さんが語る成功のきっかけとなった数々の「異常値」とは――。

※本稿は、土屋哲雄『ワークマン式「しない経営」 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

「異常値」を見逃すな

既存製品の成長カーブが止まり、新製品を開発することになったとする。

新製品やビジネスモデルのヒントを得るときに有効なのが、異常値を検知することだ。異常といっても事故ではない。

2018年にオープンしたワークマンプラス第1号店のららぽーと立川立飛店
写真提供=ワークマン
2018年にオープンしたワークマンプラス第1号店のららぽーと立川立飛店

社内にとっての非常識を非常識として片づけず、現場で何が起きているのかを調査してみるのだ。通常のデータとはかけ離れたものを見つけたら、じっくり観察してみる。たとえば製品開発なら、通常は絶対にこないお客様がいないか、通常とはまったく異なる使い方をしていないかを探す。

地域別の戦略を立てるなら、まったく売れない地域や反対によく売れている地域はないかを調査する。一般的に異常値は排除しがちだが、ここにブルーオーシャン市場拡張のヒントがある。

あるとき異常な売れ方をする製品が現れた。

ワークマン最初の「異常検知」は……

最初は「防水防寒スーツ」だった。

2016年、建設作業者や交通誘導員などの屋外作業者向けにつくった防水防寒ウェアが突然売れ出した。売切になる店舗が続出しているので現場に見にいくと、購入していたのは一般のバイクユーザーだった。

これは、もともと屋外の過酷な環境で働くための作業服だ。防水性・防寒性が高く、同時に汗を逃がす高透湿性も備え、さらに軽量で動きやすい。それが冬場のツーリングに最適と口コミで広がっていった。夜間作業着用に目立つカラーにしたのも、一般ライダーにとっては受け入れやすかったようだ。しかも、価格が上下組で6800円(税込)と安い。一般的にバイク用の防水性を持つ防寒着は数万円はする。

「ファイングリップシューズ」(税込1900円)も不思議な売れ方をした。

これはもともと厨房で働く人向けに開発した靴で、水まわりでもすべりにくい。この靴がなんと一般の女性に売れていた。これまた異常な事態である。調べてみると「すべりにくいので妊婦に最適」とブログで紹介されていた。

保湿性の高い羊毛「メリノウール」を使用した「メリノウールショートソックス」は登山愛好家が買っていた。これは1足580円(税込)もするので社内では「ストライクゾーンから外れているのでは」と懸念する声もあったが、登山用はだいたい2000円程度するので登山家の間で評判になった。

店員用やフラワーショップ向けに開発した「耐久撥水リップストップエプロン」(税込1500円)はガーデニング用として一般客に人気となり、レストラン用の焦げにくく汚れにくい「難燃防汚胸付きエプロン」(税込1304円)は主婦に受けた。中敷きが厚く履き心地がよいため、介護現場で人気の「ダブルクッションキャンパスシューズ」(税込980円)も、タウンユースとして注目されている。