「頑張ってね」の言葉に部下とともに涙する

日本航空は10年1月に経営破綻。その翌月、大川さんは執行役員(客室本部長)に抜てきされる。

「それまで客室本部長は地上職の男性が就いていたポジションです。しかし状況が状況ですから、乗務員の気持ちを誰よりもわかる人間が、再生の仕事をしなければならないんだなと思いました。正直、仕事に取り組む気持ちは大きく変わり、そこから修羅場が訪れます」

日本航空を復活させるためにリストラを進め、あらゆる制度を見直す必要があった。当然、社員にはつらい思いをさせるが、社外の多くの人に迷惑をかけた手前、それを口にはできない。しかも役員として毅然(きぜん)とした態度で改革を推進しなければならなかった。

大川さんは客室本部長として「おわびと感謝」という本部運営方針を出した。

【写真上】初のフライト。記念に花束【写真中】子育てしながら働き続ける【写真下】客室乗務員として最高のポジションに

「経営が厳しい中でも飛行機を毎日運航させていただくことができました。乗務員もいろいろと思うところはあったでしょうが、『まずはお客さまに誠心誠意、おわびと感謝の気持ちをお伝えし、フライトが終わったら話を聞かせて』と送り出したんです」

もちろん、破綻したことに激しい怒りをぶつけてくる人もいたが、「株主だったけど、これからも乗るから頑張ってね」と声をかけてくれる人もいた。涙ながらに話す乗務員の言葉に、大川さんも「涙がこぼれました」という。

今は新生日本航空のコーポレートブランドに責任を持つ。

「二度とあのような事態を起こしてはならない。この会社が日本にあってよかった、この航空会社がなければ困るという、存在感のある企業になっていかないといけないと思っています」

■大川さんの経歴

1977年(23歳)東京理科大学卒業(78年)/日本航空入社
1987年(33歳)結婚
1989年(35歳)国際客室乗員部パーサー
1990年(36歳)出産
1994年(40歳)客室乗員訓練部教官
1997年(43歳)国際フライト旅客部 チーフパーサー
2001年(47歳)第一客室乗員部 客室マネジャー
2006年(52歳)機内サービス部長
2009年(55歳)客室品質企画部長
2010年(56歳)執行役員/客室本部長
2013年(59歳)取締役専務執行役員

■Q&A

 ■好きなことば 
小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり

 ■趣味 
ピアノ、読書

 ■ストレス発散 
飲む、食べる

 ■愛読書 
『花埋(うず)み』渡辺淳一著

大川順子
日本航空 取締役専務執行役員。1954年生まれ。77年日本航空入社、78年東京理科大学卒業。国際客室乗員部パーサー、客室乗員訓練部教官などを経て2010年から執行役員。13年より、取締役専務執行役員。

文=Top Communication 撮影=貝塚純一