遺言があれば妻がすべて相続できる
こうしたときに役立つのが「遺言書」です。夏美さんのケースでは、「財産は妻にすべて相続させる」という夫の遺言書があれば、義兄と義妹は相続の権利を主張できなくなって、夏美さんが財産をすべて受け取れます。
遺言書は、亡くなった後の財産の分け方を本人が指示する指令書のようなもので、遺産分けでは最優先されます。ただし、遺言書にどう書かれていても、法定相続人には「最低でもこれだけは相続できる」という権利があって、これを「遺留分」といいます。配偶者や子、親には一定の遺留分がありますが(図表参照)、兄弟姉妹には遺留分がありません。このため、夏美さんのケースでは、こうした遺言書があれば、夏美さんが遺産をすべて相続することができるのです。
このケースと違って、もし夫の親が健在だったら? この場合、状況はもう少し複雑です。親の法定相続分は3分の1で、遺留分は6分の1です。義父や義母が「遺産はいりませんよ」と言ってくれればいいですが、必ずしもそうとは限りません。何より、高齢の義父母には、できるだけ配慮する必要があると思います。事情によっては、夫が多めに生命保険に入っておくことを検討したほうがいいかもしれません。
夫婦がそれぞれ遺言書を書いておこう
遺言書には自分で書く「自筆証書遺言」と、公証役場で作成する「公正証書遺言」があります。自分で書けば簡単のようですが、法的に通用する遺言書にはさまざまな決まり事があるので、専門書で調べたり、法律のプロに確認したほうがいいでしょう。一方、「公正証書遺言」は手間や費用がかかりますが、確実な遺言書をつくることができます(公正証書遺言の書き方はhttp://woman.president.jp/articles/-/1149)。
「遺言書のことなんて話しにくい」と思うかもしれませんが、誰でも生命保険には気軽に加入しますよね。生命保険だって万一のときに備えるものだから、意味は似たようなもの。生命保険の話をするときに、遺言書のことを話してみてはどうでしょう。
子どものいない夫婦なら、それぞれがお互いのために遺言書を書いておくのがお勧めです。もしかしたら、それって愛の証しかも! 今後、子どもが生まれたりして状況が変わることがあれば、遺言書はいつでも書き換え可能です。
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。