提言:まずは、社会に組み込まれた性別役割分業を是正すること

●東京学芸大学准教授 山口恵子さんから

日本では性別役割分業が社会のなかに組み込まれています。労働や社会保障のあり方が「男性稼ぎ主」モデル、つまり男性が主な稼ぎ手で、女性は家事をするという標準的な家庭を前提としてきました。例えば所得税の配偶者控除などが典型的なように、社会保障制度もこうした前提に立って設計されています。

こうしたモデルのもとでは女性が経済的に自立することがほとんど想定されておらず、女性の労働は低賃金で不安定なままに置かれていました。そして未婚女性であれば父親に扶養され、既婚女性であれば夫に扶養されることが想定されてきました。

以前から、そうした標準モデルからはずれ、貧困状態にある女性たちは一定数存在していましたが、日本社会ではあまり問題化されてきませんでした。しかし、近年の雇用流動化政策のもとでの非正規雇用化や労働条件の悪化、未婚・離婚等の増大による世帯の単身化のなかで、実質的に貧困が増大するとともに、女性たちの不安も高まっているのでしょう。

まずは、日本における労働や社会保障のあり方を強固に規定する性別役割分業を是正し、そのうえで、家族に頼らなくても、非正規労働であっても、生活を維持できる収入が得られるような労働の機会を確保することが重要です。低賃金かつ不安定なシフトでも笑顔で働いてくれる女性の労働力を大いに活用したい、では話は進みません。また、生活保護制度は最後のセーフティーネットであり、多くのシングルマザーや高齢単身女性にとっても命綱となっています。安易な削減は問題です。

今ある家族や仕事、健康が変わらずにあると思える人がどれくらいいるでしょうか。自身の身に起こるかもしれない困難、また他者の身に起こる困難への想像力と共感が必要です。

撮影=的野弘路