働く単身女性の3人に1人が年収114万円未満といわれ、女性の貧困問題が深刻になっている。仕事ができるのに待遇がわるい、キャリアブランクがあるため非正規枠でしか採用されない――。数々の問題点について、働く女性3人に話をきいた。
山本さん/製薬会社でMRを経験後、転職し医療機器のマーケティングを担当。その後、外資系企業で活躍中。
江川さん/大手日系通信会社に勤務後、グローバルで活躍できる場を求めてコンサルティング会社に転職。
※キャリア女性のための転職サイト「ビズリーチ・ウーマン」(https://woman.bizreach.jp/)の協力を得て3人の方にご参加いただきました。
正社員への道を、明確に示してください
――私の手元にはOECD諸国の男女賃金格差(フルタイム限定)のランキングがあるのですが、日本は韓国、エストニアに次いで男女賃金格差が激しい国になっています。
【星野】理由は恐らく、女性の非正規雇用者が多いのと、正社員でも男女間では昇進スピードの差があるからでしょうね。私は、日系の金融機関からキャリアをスタートし、留学、外資転職を経験して今は再び日系の金融機関にいますが、最初から役付きで入ったため、上司から「女性陣にバックグラウンドは語るな、反感買うから」と言われましたもの。
【山本】私も外資系製薬会社のMRや医療機器メーカーを経てヘルスケア業界で3社目ですが、日系企業に勤めていたときは一般職と総合職の女性同士の格差を感じましたね。一般職の女性には「いくら貰っているの?」なんてしつこく聞かれました。
【江川】私は今は外資系のコンサルをやっていますが、前職は大手日系インフラ企業でした。だからよくわかるのですが、一般職の女性の中には、並の男性総合職よりよっぽど高学歴で仕事のできる人がいっぱいいましたね。なのに待遇は、悪い。不公平ですよね。
【山本】総合職は家賃補助が8割も出るけど、一般職は会社から1時間半離れていなければダメ、とか。
【星野】10年前に留学先から戻ってきて驚きましたよ。非正規の女性がこれだけ増えていたことに。女性の約57%がそうだと。しかも昔、銀行のパートの女性といえば、旦那さんが裕福でお友達を探しに来ているみたいな人が多かったのに、今、銀行で働く非正規の女性はシングルマザーで世帯主なんていう人も多い。だから、正社員になりたいはずなのに、出産などでキャリアにブランクがあるため非正規枠でしか採用されない。
【江川】一般事務のような曖昧な職種ではなく、仕事に名前が付いているような職種でなければ正社員として採用されないんですよね。私は今、アウトソース(外注)のコンサルティングの仕事もしているんですが、事務の仕事を中国やインドに外注する企業が急増中で、そのうち一般事務的な仕事は日本から全部なくなるんじゃないかと思います。ましてや、人工知能が発達すると、そうした仕事はロボットに取られてしまうのではと。
――非正規雇用は50歳を過ぎると継続雇用してもらいにくいという問題もあります。そのため50歳以上のシングル女性の貧困も問題に。
【星野】私の会社にもいます。「頑張れば正社員になれるかもしれない」というふれこみで入ってきて、なれないままに年齢を重ね、「次の契約はない」みたいなことを言われてしまう女性が。
【江川】新しい道へのチャレンジを促す公的な職業教育が充実していないし、転職市場も欧米ほどには広がっていないことも問題ですね。
――男女の昇進スピードの違いについては、どう思いますか?
【江川】コンサルティング業界は偉くなる女性もいますが、皆、鬼軍曹みたいなんですよね(笑)。業績が悪くても2年分の収入を保証しろみたいな交渉を普通にしてくる人が結構いる。
【星野】私の周囲など、キャリアを積みすぎて、つまり偉くなりすぎて職が見つかりにくくなり、海外に行った女性もいっぱいいます。
【山本】ハイキャリアの女性が活躍できない労働市場はいびつですね。一方で、女性の非正規雇用の問題もある。まず政府は、職業教育を拡充させたり、お母さんのためのハローワークがあることや、その活用方法などをうまくPRし、必要な人に必要な情報を届ける工夫をすべきだと思いますね。
【星野】あとは、年齢や男女の格差を埋める施策が急務です。そして女性たちは、女性の中でも総合職、一般職、非正規などの区分け、分断がされてしまっているので、もっとお互いの立場を理解して歩み寄ることが必要ですね。
働く女性の貧困問題につきまして、下記により要望いたしますので、宜しくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。
(1)出産や育児を機にキャリアにブランクができたとしても正社員として再就職できるしくみをつくってください。
(2)ハローワークやキャリア教育の場が、もっと有効に活用されるように工夫してください。
(3)「正社員の夫+専業主婦かパートの妻」という古い時代の夫婦像を前提に話を進めないでください。
以上 第7回 座談会参加者 一同
提言:まずは、社会に組み込まれた性別役割分業を是正すること
●東京学芸大学准教授 山口恵子さんから
日本では性別役割分業が社会のなかに組み込まれています。労働や社会保障のあり方が「男性稼ぎ主」モデル、つまり男性が主な稼ぎ手で、女性は家事をするという標準的な家庭を前提としてきました。例えば所得税の配偶者控除などが典型的なように、社会保障制度もこうした前提に立って設計されています。
こうしたモデルのもとでは女性が経済的に自立することがほとんど想定されておらず、女性の労働は低賃金で不安定なままに置かれていました。そして未婚女性であれば父親に扶養され、既婚女性であれば夫に扶養されることが想定されてきました。
以前から、そうした標準モデルからはずれ、貧困状態にある女性たちは一定数存在していましたが、日本社会ではあまり問題化されてきませんでした。しかし、近年の雇用流動化政策のもとでの非正規雇用化や労働条件の悪化、未婚・離婚等の増大による世帯の単身化のなかで、実質的に貧困が増大するとともに、女性たちの不安も高まっているのでしょう。
まずは、日本における労働や社会保障のあり方を強固に規定する性別役割分業を是正し、そのうえで、家族に頼らなくても、非正規労働であっても、生活を維持できる収入が得られるような労働の機会を確保することが重要です。低賃金かつ不安定なシフトでも笑顔で働いてくれる女性の労働力を大いに活用したい、では話は進みません。また、生活保護制度は最後のセーフティーネットであり、多くのシングルマザーや高齢単身女性にとっても命綱となっています。安易な削減は問題です。
今ある家族や仕事、健康が変わらずにあると思える人がどれくらいいるでしょうか。自身の身に起こるかもしれない困難、また他者の身に起こる困難への想像力と共感が必要です。