遺言作成の当日の流れ

当日、司法書士と私は老人ホームにおじゃましました。応接室にてはじめてお会いするご夫婦にご挨拶をし、すぐに公証人がやってきました。今回は高齢のご夫婦なので、公証役場に出向くのではなく、公証人に老人ホームまで出張をしてもらいました。もちろん、出張手数料はかかります。

遺言作成にご夫婦同席は許されません。まずは妻が部屋から出て、遺言作成本人の夫、公証人、司法書士、私の4人となりました。最初、公証人は夫と少し雑談をします。生年月日や昔の職業を聞いたり、出身地や息子の名前、遺言の中身もとどんな割合で分けるのかを口頭で聞きました。

後から聞いた話ですが、わりと厳しい公証人だったようで、雑談の時間は10分ぐらいで、夫が認知症でないかよくチェックしていました。このチェックは公証人それぞれに異なるそうで、司法書士はご夫婦と「こんなこと聞かれるかもよ」と、リハーサルを何度かしたそうです。

ここで、認知症になってからでは遺言を作成することができない場合もあるのでご注意。なぜなら、認知症の程度によっては周囲の人間が勝手に分割の割合を誘導できてしまうからです。遺言作成時に遺言を作る能力がないと判断されると、公証人は遺言を作成してくれません。過去には作ってくれないこともあったと、友人の税理士から聞きました。法律遵守とはそういうことなのでしょう。

公証人が、夫に遺言作成能力があることを確認すると、遺言抄本を夫と私に手渡し、遺言の1ページ目から読み上げました。司法書士は夫といっしょに読み上げているカ所を指で追い、私も誤字脱字がないかをチェックしながら、読み合わせをしました。私の名前が読み上げられたときには、はじめてお会いしたご夫婦の遺言なのに不思議な気持ちがしました。

すべてが終わったところで、夫、行政書士、私の3人は謄本と抄本に署名をし、認印を押しました。公証人のサインはあらかじめしてありました。この時の署名は筆ペンです。古文書でもわかるように、墨が入っている筆ペンは後世までずっと残るからだと、公証人から説明がありました。

その後、夫と妻が交代し、夫が部屋を出て、妻は同様のことをし、遺言を作成しました。