「安く早く」で遠回り
「一億総活躍社会」と言われているのに、そのインフラ(基盤)整備が遅れ、「活躍」の手だてが奪われている現状は許しがたいものですが、それでも私たちが求めているのは、安心して子どもを通わせられる保育施設だということを押さえる必要があります。なぜなら、さきほどふれた政治家のように、認可をふやすかわりに利用者にお金(バウチャー)を配って、ベビーシッターも含むさまざまな保育サービスを利用させるようにすればいいという意見もあるからです。それでは子どもの安全は確保し難く、家庭が払えるお金の額によって利用できる保育に格差も生まれます。そもそも簡単には質が見きわめられないから、事前に基準を設け、基準を満たした保育に公費を投入するしくみ(認可制度)をつくったわけで、認可と認可外の死亡事故の発生率の差を見ても、それは機能しているといえます。
東京都の認可外助成制度である認証保育所制度は、民間事業者が賃貸物件などでより自由に保育施設を開設・経営できるしくみとして2001年に始まりました。多くの自治体が、少子化の流れの中で「ハコもの」(保育所)をつくることをためらい、「ハコ」いらずでコストも安くすむ認証保育所の増設に傾いたため、しばらくの間、保育所の整備が鈍りました。あのとき、共働き一般化という時代の方向性を正しく読んで、ちゃんとした「ハコもの」を着実につくっていたら、ここまでひどいことにはならなかったはずです。
結局、さまざまな認可外助成制度がある地域でも、認可の保育、とりわけ保育所は一番人気です。保育所は、所得に応じた保育料で家庭の経済状況にかかわらず利用でき、面積基準や保育士配置基準も高く、園庭があるところが多く、安心して通えるという信頼感をもたれています。保育所をつくってほしいと言っているのに、いつも何か別のもので代用しようという話が出てきて、遠回りになっているよう気がします。