建設工事の現場は、圧倒的に男性が多い。そこへ廣作さんが現れると、作業員たちの表情がたちまちなごむ。
だがその理由は、彼女が女性だからというだけではない。見ていると、これまでのこまやかな気遣いが、彼女への信頼につながっているようだった。
「現場の雰囲気をつくるために大切なのは、実はとてもささいなことだったりするんです」と彼女はにこやかに言った。
例えば名札をなくしてしまった作業員がいれば、すぐに新しいものを手配すること。無造作に転がっているクギや板をきちんと片づけること――。
そうした小さな気配りの一つ一つが、現場の安全や働きやすさにつながる。何より、その際に交わすちょっとしたやり取りが、作業員たちとの円滑な関係を生み出すという。
「だから、私は上下関係や年齢に関係なく、気づいたらすぐ物事に対応することをモットーにしてきました。普段、こまめに会話を交わしているからこそ、『あの箇所は納まっていないけど大丈夫かな』『じゃあ、俺が見ておくよ』といった大切なコミュニケーションも増えていくんです。男性の管理者の中には、そういうことに無頓着な人もいます。その意味では建設現場って、実は女性に向いているんじゃないかと私は思うんですよ」