エキュート大宮の開業を約2カ月後に控えた04年12月27日、JR東日本の納会が開かれたその日でも、出店先の決まらない区画がまだ3カ所も残っていた。
納会が終わると、夜にもかかわらず再び出店交渉に飛び出した。当時はよく開業できない夢を見たと鎌田さんは振り返る。
「開業日が書かれた看板の前で、テナントの社長に『ここに出店してくれるって言ったじゃないですか』と言いながら泣きそうになっているんです」
年末年始に全区画が決まったときは、どれだけ安堵(あんど)しただろう。
鉄道のカルチャーも鎌田さんを悩ませた。JR東日本だけでなく鉄道会社は「安全・安心」が一番だ。新しい駅の形をつくると言っても、すべての基本となるのは鉄道事業。たとえば百貨店なら行列ができる店は大歓迎されるが、駅構内だと「行列ができたら通行人に迷惑になるから、困る」。駅に何かが起こると当然工事はすべてがストップする。連動して、商業施設の工事はどんどん遅れていく。
「それで、出店の約束をいただいていた取引先から怒られてしまいました」
カルビー上級執行役員。1989年4月、東日本旅客鉄道入社。大手百貨店出向や駅ビル等勤務を経て、2001年より「立川駅・大宮駅プロジェクト」のリーダーとしてエキナカ事業を手掛ける。05年「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長。08年より本社事業創造本部にて「地域活性化」「子育て支援」を担当。13年JR東日本研究開発センター副所長を経て、15年1月東日本旅客鉄道退社。同年2月より現職。
撮影=篠田英美