多様な人材が自由に意見を交わす

アメリカ・スタンフォード大学の「dスクール」で講師も務めるプフェールト氏は、イノベーションにつながる抜本的なアイデアを「10×アイデア」と呼ぶ。ロジックを突き詰めただけでは「10×アイデア」は生まれない。多様な人材が出会い、自由に意見を交わし、共感しながら目標にフォーカスできる環境でないと、マジックは起こらない。そのために彼らはあえて従業員を職場から切り離す。何げない日常生活の中にこそ、重要なイノベーションのヒントが隠れていることを、知っているからだ。

組織の多様化と聞けばつい、女性や外国人を増やせばいいのか、と思ってしまう。しかし、重要なのはむしろ、あらゆる先入観をなくすことのほうかもしれない。

ダイバーシティビジネスパートナーの山地由里氏は問いかける。

ダイバーシティビジネスパートナー APAC 山地由里氏「無意識の偏見をなくせば組織のパフォーマンスも上がります」

「巨人ファンの中に1人だけ阪神ファンがいたら、きっと居心地の悪い思いをしますよね?」と。これも、一種の偏見によるものだ。このような無意識の偏見を、英語では「Unconscious Bias(アンコンシャス バイアス)」という。バイアスがかかると、それだけで評価の目が曇ってしまう。実際、履歴書に書かれた名前が男性的か女性的かによって理系ポジションへの採用率に変化が生じる。故障したコピー機を直してほしいと頼んだ場合、男性が断っても評価は落ちないが、女性が断ると評価が落ちるという研究結果もある。

無意識の偏見に悩まされているのは女性ばかりではない。介護や配偶者の転勤などで、一時的に仕事にフルコミットメントできない状況は誰にでも起こりうる。フレキシブルな働き方を標準化することは誰にとっても望ましいはずだ。

環境をつくるのは人である。グーグルで働く人たちはみな、当事者意識が高かった。一人ひとりが自立して働き、より理想的な環境を求めて声を上げるからこそ、会社もそれをサポートできる。働くママの問題を自分たちの働き方の問題だととらえ直すことから、イノベーションは始まる。

撮影=冨田寿一郎