国内化粧品に比べて低いグローバルの利益率

2015年3月期において資生堂は国内売上よりも海外売上の方が多かったことは前述したとおりですが、売上だけでなく利益も併せて見てみると、会社の経営状況をより正確に把握できます。

資生堂のセグメント別財務データでは5年分のセグメント別の売上高および利益の推移が開示されており、それを基に売上高と利益率の推移表を作成すると図「資生堂の地域別売上高および利益率」のようになりました。

グラフを拡大
売上だけを見ると好調に感じるグローバル事業。しかし、併せて利益率を見てみると、その印象が大きく変わる(編集部にて作図)。

国内化粧品での売上は減少傾向であるのに対し、グローバル、つまり海外での化粧品売上は増加傾向であり、2014年3月期には両者が逆転してグローバルの方が国内を上回りました。しかし、利益率で見れば両者の差は歴然です。国内化粧品の利益率の方がはるかに高いのです。国内では9%前後の利益率を継続的に出しており、高いときは11%超えであったのに対し、グローバルでは利益率が低迷しており、さらに5期中2期において赤字を出しています。

これにより、資生堂の利益率には、グローバル事業が大きな影響を与えていることが分かります。資生堂の海外売上高は2015年3月期で4120億円と、日本の化粧品メーカーの中で、文字通り桁違いの数字を誇るものです。国内の社員の生産性を上げてさらに収益力を高めることはもちろん大切ですが、それと同時に売上が伸びている海外事業の利益水準を、国内に近づけていくことが最も大事なのではないでしょうか。決算情報からは、そんな声が聞こえてきます。

以上、今回は資生堂の決算情報を見てきました。売上や利益といった大きな金額に着目するだけでなく、その増減理由や内訳についてまで調べてみるとより会社の実態や方向性が見えてくることを実感できたのではないでしょうか。そのためにも会社の有価証券報告書やIR情報を活用していきたいものです。

秦美佐子(はた・みさこ)

公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。早稲田大学オープンカレッジ八丁堀校で、有価証券報告書の活用術講座を開講(https://admin.wuext.waseda.jp/course/detail/35255/)。