「売り抜け」は大規模修繕の前に

子どもの成長にとっての影響も気になる。気軽に外に行けないことから閉じこもりがちになり、社会性が育たない、高所に恐怖感を抱かなくなる、自然を感じる機会が少なく、情操面での成長が望めないなど、様々な指摘が行なわれているのである。もちろん、その中には。親の心がけで克服できる問題もあるが、人間の歴史の中で高層に住む経験はごく短期のものである。どのような影響があるかについてはまだ分かっていないとこうがあるというのが本当のところだろう。

もうひとつ、タワーに大きな疑義を抱いた出来事がある。東日本大震災である。あの時、首都圏の多くのタワーでは居住者が下に降りてきた。安全だと言われても高層の自室にいることに不安を覚えた人が多かったのである。危険を感じた時、そこにとどまろうと思えない住まいが自分にとっての終の棲家といえるだろうか。終の棲家とはもっと安心感のあるところであろうというのが私の意見である。

ちなみに賃貸でタワーを借りるのであれば、お勧めは勝どきである。同じ都心3区でも中央区は他区に比して賃料が手頃で、かつ銀座、大手町へも徒歩、自転車利用で近い。隅田川、東京スカイツリーに皇居の緑も望める物件もあり、タワーの魅力を満喫できるはずだ。

もうひとつ、10年から15年くらいで売り抜けるというのは、最初の大規模修繕の前にという意味である。タワーマンションでは大規模修繕に1年から2年程度はかかるが、その間は養生のシートで覆われ、生活が不便になる。その時期に売るのは得策とはいえない。また、一般に築10年前後は最初に買った人の家族構成、ライフスタイルなどが変化し、売却が増える時期でもある。売るならそのくらいが目安というわけだ。

取材協力/studio harappa

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■国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
http://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf
中川寛子
東京情報堂代表、住まいと街の解説者、日本地理学会会員、日本地形学連合会員。
住まいの雑誌編集に長年従事。2011年の震災以降は、取材されることが多くなった地盤、街選びに関してセミナーを行なっている。著書に『キレイになる部屋、ブスになる部屋。ずっと美人でいたい女のためのおウチ選び』『住まいのプロが鳴らす30の警鐘「こんな家」に住んではいけない』『住まいのプロが教える家を買いたい人の本』など。11月5日に新刊『解決!空き家問題』(ちくま新書刊)が発売されたばかりだ。