旭化成建材の杭工事データ偽装。居住者には予期できない問題だが、他にもタワーマンションには住まい手がコントロールできないさまざまな要因がある。不動産屋が教えてくれないコワイ話を、“住まいと町の解説者”中川寛子さんが教えます。

1968年の霞が関ビルに始まり、日本の建物は高層化を続けてきた。住宅においても途中経済動向の変化などによって多少減った時期はあったものの、基本的には超高層マンション(20階建て以上)は増加傾向にあり、不動産経済研究所の統計によると、2014年までに約1200棟、約31万戸が供給されている。

現在も三大都市圏、政令指定都市を中心に建設が続いており、特に首都圏では都心、湾岸エリアはもちろん、武蔵小杉や金町、立川、国分寺など幅広いエリアでの供給が予定されている。これから家を買う人にとって、タワーマンションは選択肢のひとつになっているだろう。

では、そのタワーマンション、買うべきか、否か。結論から言う。借りるならよいが、あるいは購入後10年から15年くらいまでに手放して売り抜けるつもりなら別だが、ずっと住むつもりで買うというなら、お勧めはしない。タワーマンションには購入者が自分でコントロールできない不安要因が数多くあるからだ。以下、理由を述べていこう。

タワーマンションが抱える不安要因

不安要因のうち、大きいのは大規模修繕、管理組合での合意形成に関するものである。タワーマンションでは大規模修繕時に足場が組める一般的なマンションとは異なり、屋上からゴンドラを使用するなど特殊な技術が必要になる。「しかも、タワーは時代時代の最新技術・材料を取り入れるので、1棟1棟が特注と言ってもよく、修繕方法についても個別に検討することに。当然、修繕費用も高くなりがちで、一般のマンションの1.5倍から2倍くらいにはなると見込まれます」とはタワーマンション問題に詳しい「studio harappa」の村島正彦氏。実際、2015年夏に2年計画で大規模修繕が始まった埼玉県川口市のエルザタワー55の工事費は約12億円、一戸当たり平均で約180万円、一般のマンションの約2倍と報じられている。

ローンや管理費の支払いに加え、準備が必要な修繕積立金。国土交通省は2011年以降、後日の修繕積立金不足を発生させないよう、計画期間中に必要とされる金額をあらかじめ均等に積み立てていくことを推奨している。それにも関わらず、毎月の支払額を安く見せるために当初の修繕積立金を抑えるケースは減っていない。その場合、12~15年に1回予定される大規模修繕時に不足が出ることが想定されるため、入居から5年目、10年目で修繕積立金値上げが織り込まれている。徐々に毎月の支払いが増えていくわけである。

年を追うごとに増額される修繕積立金

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【グラフ上】単棟型マンション 新築時の修繕積立基金/戸当たり【グラフ下】単棟型マンション 現在の修繕積立金総収入/月/戸当たり(使用料・専用使用料からの充当額を含む)
国土交通省のマンション総合調査2013年より。共に20階建以上の修繕積立金が高いことが分かる。

一般のマンションでも同様に修繕積立金の値上げはあるのだが、国土交通省のマンション総合調査(2013年)で見ると、20階以上のタワーマンションの修繕積立金はそもそもが高い。それがさらに上がるとしたら、売却時に不利になる可能性があるのはもちろん、定年後の暮らしに不安を抱えることになる。年金生活で毎月数万円以上に及ぶ管理費、修繕積立金を払い続けるのは大変だ。実際、定年を機に売却するケースも出ている。

それでも1回目の大規模修繕まではなんとかなる。「それほど修繕予算が潤沢にあるわけではないにも関わらず、当初の仕様が共用部も含め、全体に高めに作られていることもあり、1回目の大規模修繕でエントランスロビーの間接照明、絨毯なども取り換えて欲しいと押し切られることもあると聞きます」とは前出の村島氏の弁だ。他のマンション以上の出費があっても、1回目の大規模修繕で修繕費用が足りなくなることは考えにくい。だが、最初から大盤振る舞いをしてしまう、そして、それを当然としてしまうと、2回目以降の大規模修繕では積み立てた修繕費用だけでは足りなくなる危険も考えられる。

問題はそれ以降。「実際のタワーマンションの修繕積立金を調査した研究者によると、大規模修繕の資金計画が築15年目以降に不足しているケースもあると言います。築20年以上ともなると、50階程度で1基1億円とも言われるエレベーター、超高層を支える多くの設備関係の交換も想定され、そうなると非常に多額に及ぶ。きちんと更新が行われないと、30年後、40年後に新築時と同じような快適な暮らしが保証されるか、怪しくなります」(前出・村島氏)。大規模修繕は1回目よりも2回目、2回目よりも3回目と修繕費用が嵩むものなのである。

「ホテルライクな暮らし」という落とし穴

予算が足りない状況で大規模修繕を行おうとした場合、住民から一時金を徴収する手もあるが、区分所有者の数が多いタワーマンションでは管理組合で意見をまとめるのは至難の業。ホテルライクな暮らしという、タワーマンションではよくあるセールストークに自分は何もしなくても誰かがやってくれるものと勘違い、当事者意識の薄い住民が多いのである。多くの物件では高層階、中層階、低層階と異なる所得層、家族構成の人たちが住んでおり、金銭感覚、利害関係はかみ合わない。高さごとにエレベーターも異なるような物件ではそもそも、異なる階層間にコミュニケーションがおろそかになりがち。都心部の、足回りの良い物件では居住としてではなく、オフィス使用、投資用などとして所有している人もおり、意見はさらにまとまらない。

加えて1970~80年代までと違い、最近のマンションでは20代から80代までと幅広い年代が購入している。都心のタワーマンションではその傾向が特に顕著で、そのため、入居後早期に相続が発生する可能性が高い。相続人たちがすでに自宅を所有しており、相続した部屋に住まないとしたら、住戸は宙に浮く。売りに出されるならまだしも、空き家になる、管理費などが払わなれない住戸が増えてくるとどうなるか。説明するまでもない。また、購入者にDINKSが多いのもタワーマンションの特徴だが、ここでも相続後に不安が残る。引き受け手がいない可能性が高いのである。

また、近年、懸念されるのは外国人が所有する住戸の増加である。外国人とはいえ、同じ区分所有者になるわけだが、彼らに対してそもそも何語で管理組合の通知を出すべきなのか、あるいは法律、常識の異なる人たちを相手に物事を進められるか。彼らが住宅をそのままに本国へ帰るなどして連絡が取れなくなった場合、外国人の割合にもよるが、管理組合の決議に支障をきたす可能性もある。現在建てられている物件であれば建替えはかなり先だろうから、誰も心配はしていないと思うが、将来的には外国人所有者の存在が建替えを阻害する可能性も高い。

災害復興時の再整備も想定に入れる

災害対応も不安要因のひとつ。きちんと建てられてさえいれば、日本の建築技術は信頼に足る。だが、大手を中心に施工のミス、偽装などといったあり得ない事件が続き、信頼が揺らいでいることは周知の事実。特に首都圏は関東大震災以降、大地震を経験していない。理論値としては安全だとしても、それが実際に検証されてはいないのである。

建物そのものに問題がなくとも、周辺が液状化した場合、建物と周囲の敷地との間に段差が生じ、それがライフライン切断に繋がる危険がある。実際、東日本大震災で液状化が起きた浦安ではそうした問題が発生した。行政が復旧しない敷地内のライフラインの再整備には多額の費用がかかるが、修繕積立金はそうした事態を想定していない。さらにその後のことを考えると修繕積立金が足りなくなる可能性がある。

浦安市の場合には最終的に市が1管理組合あたり3000万円、ライフラインの復旧にかかった経費の3分の1を上限に助成をしたが、浦安市のように財政にゆとりのある自治体ならいざ知らず、その他の自治体ではそのような助成は期待しにくい。実際、浦安市の助成については全国市長会で他の市では不可能な事例を作ってしまったという批判の声が出たそうである。

もうひとつ「最近の免震マンションは、大地震への備えとして安心と謳われています。ただ、東日本大震災では東北地方だけでなく遠くはなれた東京や大阪でも免震システムの根幹をなす鉛ダンパーに亀裂を生じた例が少なくとも30棟ありました。次の大きい地震の前に損傷が無いかの調査、場合によっては部品の交換を行う必要がありますが、オフィスビルも含めて免震建物が数多くある首都圏では、大地震後に調査できる事業者や部品の調達が確保できるかなど、100%安心とは言えないでしょう」(前出・村島氏)

「売り抜け」は大規模修繕の前に

子どもの成長にとっての影響も気になる。気軽に外に行けないことから閉じこもりがちになり、社会性が育たない、高所に恐怖感を抱かなくなる、自然を感じる機会が少なく、情操面での成長が望めないなど、様々な指摘が行なわれているのである。もちろん、その中には。親の心がけで克服できる問題もあるが、人間の歴史の中で高層に住む経験はごく短期のものである。どのような影響があるかについてはまだ分かっていないとこうがあるというのが本当のところだろう。

もうひとつ、タワーに大きな疑義を抱いた出来事がある。東日本大震災である。あの時、首都圏の多くのタワーでは居住者が下に降りてきた。安全だと言われても高層の自室にいることに不安を覚えた人が多かったのである。危険を感じた時、そこにとどまろうと思えない住まいが自分にとっての終の棲家といえるだろうか。終の棲家とはもっと安心感のあるところであろうというのが私の意見である。

ちなみに賃貸でタワーを借りるのであれば、お勧めは勝どきである。同じ都心3区でも中央区は他区に比して賃料が手頃で、かつ銀座、大手町へも徒歩、自転車利用で近い。隅田川、東京スカイツリーに皇居の緑も望める物件もあり、タワーの魅力を満喫できるはずだ。

もうひとつ、10年から15年くらいで売り抜けるというのは、最初の大規模修繕の前にという意味である。タワーマンションでは大規模修繕に1年から2年程度はかかるが、その間は養生のシートで覆われ、生活が不便になる。その時期に売るのは得策とはいえない。また、一般に築10年前後は最初に買った人の家族構成、ライフスタイルなどが変化し、売却が増える時期でもある。売るならそのくらいが目安というわけだ。

取材協力/studio harappa

マンションの修繕積立金に関する情報はココでチェック!
■国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
http://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf
中川寛子
東京情報堂代表、住まいと街の解説者、日本地理学会会員、日本地形学連合会員。
住まいの雑誌編集に長年従事。2011年の震災以降は、取材されることが多くなった地盤、街選びに関してセミナーを行なっている。著書に『キレイになる部屋、ブスになる部屋。ずっと美人でいたい女のためのおウチ選び』『住まいのプロが鳴らす30の警鐘「こんな家」に住んではいけない』『住まいのプロが教える家を買いたい人の本』など。11月5日に新刊『解決!空き家問題』(ちくま新書刊)が発売されたばかりだ。