――人によっては高齢出産も選択肢の1つなのですね。

【坂井】若いころに産んでいたら、仕事がないのを子供のせいにしてしまったかもしれない。定期的に漫画を描かせてもらえている今なら、ある程度自分が満たされている分、子供にも執着せず、わがままを受け止めつつ、いい意味で突き放せる親になれるのではないかなと。自分が満たされていないと、自分の願望を転嫁して、「子育てで私が幸せになる」と、子供に依存してしまうことってあると思うんですよね。

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無事出産し、育児や仕事を通じて社会を変えていく主人公・桧山。そんな桧山自身も変わっていき……。作品では、桧山健太郎の妊娠から30年後についても描かれている。(『ヒヤマケンタロウの妊娠』より。(C)坂井恵理/講談社))

――ああ……、とても分かります。でも、そういう意見って表立って言いづらい気がします。私も仕事が好きですが、「子供=幸せ」とそう簡単には思えない。子供を産むよりも仕事をしたい、と言うと、愛情が欠けている冷たい人と思われそうで。

【坂井】「子供は要らない」って言いづらいですよね。私もそう思っていました。でも、無邪気に子供を欲しがる人が全員愛情深いかというと、そうとも言い切れないと私は思います。結婚したら子供を持つのが当たり前、という無意識の思い込みがまずあって、それに引っ張られての感情かもしれないですし。むしろ、思考停止で「子供=幸せ」と思ってしまっているほうが、怖いことかもしれません。

――怖いこと、とは?

【坂井】子育ては楽しいし面白い。けれど母親ひとりでの育児はやっぱり大変です。幸せなイメージや、「育児は母親がするもの」という思い込みにとらわれすぎてしまうと、期待値からの落差が大きすぎて、そのストレスが子供に向かってしまうこともあるんじゃないでしょうか。私は、男性がもっと家事や育児をすれば、産後まもなくの離婚や、母から子への虐待はかなり減ると思っているんです。

女性という性の生きづらさ

――2015年8月より『BE・LOVE』(講談社刊)で連載が始まった最新作『鏡の前で会いましょう』のテーマは、女性の美醜についてです。妊娠や美醜など、女性が生きる上でぶつかる問題を、作品のテーマとして多く取り上げられるのには、何か理由があるのでしょうか?

【坂井】きっかけは小学5年のときに弟が産まれたことですね。父が一切育児をせず、なぜか母ばかりが弟の世話をしているのを見て、初めて女性という性別の役割に疑問を持ちました。でも、子供を産まない選択肢もありますし、じゃあ自分はそういう選択をしよう、とそのときは思っていたんです。そうこうしているうちに大学を卒業し、そのころ母が病気になり、実家で“母親としての役割”をやらされるようになりました。なんで当たり前のように私がほぼ全ての家事をすることになっているのだろう……、これはなんだろう……と。