――確かに、男性全員に妊娠の可能性がある設定にしてしまうと、マイノリティーにはならないですね。

【坂井】もし男性全員が妊娠することになってしまったら、国を挙げて「妊娠する男性をいたわろう」というようなキャンペーンを始めそうですよね。主人公のヒヤマをはじめ作中で妊娠した男性について、マイノリティーであるがために陰で笑われるなど、偏見を持たれる立場として描けば、周囲の無邪気な差別感覚や、妊婦の生きづらさを伝えられるのではないかと思いました。

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男性でありながら妊娠した主人公・桧山は、世間からの「視線」に戸惑いを覚える。(『ヒヤマケンタロウの妊娠』より。(C)坂井恵理/講談社)

――私は女性ですが妊娠の経験がなく、妊婦さんがどういう部分で生きづらいのかが分からないところがあります。

【坂井】私もそうでしたね。親子連れや妊婦さんに対して冷たくしていたつもりはなかったですが、目には入っていなかったのだな、と自分が妊娠してみて思い知りました。今は、妊娠前よりも明らかに子供や妊婦さんが目に入るので、それ以前はどれだけ見えてなかったのだろう、と。

女性が子供を産むタイミングとは

――自分が妊娠するとは考えていなかったころがあった、とのことですが、子供を産む予定はなかったのですか?

【坂井】もともと婦人科系の病気があり妊娠しづらかったのですが、かと言って、不妊治療をしてまで欲しいとも思っていませんでした。それに、物心ついたころに弟が生まれ、育児の大変さを目の当たりにしていたんですよね。育児、出産の痛み、つわりなど、そんな大変な思いをしてまで子供が欲しいか、育てたいかと言われると、その気は全然ありませんでした。単純に子供がさほど好きではなかったこともあります。

――それで産む決意をしたとは、どんな心境の変化があったのでしょうか?

【坂井】まず1つは、夫の家事能力がとても高いので、産んでも大丈夫かなと思えたこと。もう1つは、年を取ったことと今の仕事の状態から。20代のころだったら、育児に時間を取られて仕事を満足にできなくなることで、不満を抱えてしまったかもしれません。だから、体力や体の状態にもよりますが、私は高齢出産でよかったと思っています。