監査法人の財政状態が悪い理由
新日本監査法人の決算書によれば、2015年6月期における売上高は991億円、当期純利益は8億円です。当期純利益率は0.8%の計算となり、かなり低いことがわかります。
その一因は高い人件費にあります。同期における人件費(給与、賞与、退職給付費用、社員退職引当金繰入、法定福利費を含む)は680億円であり、売上高の7割に上ります。
2015年6月時点では新日本監査法人に6284名が在籍しており、退職給付や会社負担の法定福利費を除いた人件費を期末の人数で割って簡便に計算すると、1人あたりの平均年収は924万円となります。
また、新日本監査法人は自己資本比率が低いのも特徴です。経済産業省が「平成26年企業活動基本調査速報」で発表した自己資本比率の全国平均が39.2%なのに対し、新日監査法人のそれは23.2%に過ぎません。ここで、自己資本比率とは総資本に対する自己資本の割合のことで、会社の安全性をはかるうえでの1つの指標です。それが低いということは裏返せば他人資本が多いということで、安全性が低いとされています。自己資本と他人資本の詳細については連載第4回「なぜ堅実なトヨタが19兆円もの借金を負ったのか」(http://woman.president.jp/articles/-/431)に書きましたので、そちらをご参照ください。
新日本監査法人の場合、負債の部に社員退職引当金が335億円も計上されていることが自己資本比率の低さにつながっています。監査法人でいう社員とは一般事業会社の経営者に相当するポジションとなります。社員退職引当金とはその社員が退職した際に支払われる退職金の見積額です。新日本監査法人の社員数は平成27年6月末時点で640名となっており、社員1人あたり平均して5241万円の退職金がもらえる計算です。社員は基本的に担当するクライアントの監査報告書にサインをし、その意見表明に対して重い責任を負います。キャリアが長くかつ責任重大なため、その分が高い報酬と退職金に反映されているのです。利益率や自己資本比率の低さは高額な人件費負担のためだったのです。
そして、監査法人では一般企業のように所有と経営が分離しておらず、経営者である社員は会社の出資者でもあります。経営者イコール株主のため、利益率や自己資本比率が低くても、法人がきちんと存続していける限り、全く問題ないというわけなのです。
ご参考までに監査法人での所属者の階層は図のようになっています。