■雇用ジャーナリスト海老原嗣生さんから
「安倍さんへ」
日本にも変化の胎動は感じます。賃金構造基本統計調査のサンプル数で見ると、従業員1000人以上の大企業でも女性の係長比率は2割に近づきました。30年前は3%に届かなかったので、小さいながらも大変化ですね。年功序列型の昇進体系からすれば、5年遅れで課長も2割が見えてくるでしょう。
ただ複雑です。欧米諸国が「女性比率3割」と言うときの管理職には、店長や現場リーダーが含まれます。彼女らはエリートコースとはいえません。エリートコースたる経営管理職群になると女性比率は落ちる。各国でクオータが騒がれる役員層クラスになると英独仏でも1割程度。欧米で女性が昇進しているというのは、「現場リーダー」クラスが多数なのです。
いや、役員が1割近くもいるのだから、経営管理コースでも女性は日本よりはるかに多いのは事実です。でもそんなふうに昇進していく女性たちは、長期間の育休をとったり、短時間勤務をしていません。フランスの経営管理コースであるカードルでは、8割以上の女性が「家族との時間がとれない」と嘆いています。恒常的に日曜日も労働している比率はなんと7割。それを可能にするのがテレワークで、結果、24時間仕事から逃れられなくなった、なんて調査もあります。
つまり、上を目指すならバリバリ働き、家事育児はアウトソースするか、ダメな旦那に任せる。反対に、現場リーダークラスで終わるなら家事も育児もできて余暇も充実。それが世界の常識なのに、日本には誤って伝わり、欧米では余暇充実で皆が出世していると考えてしまう。そんな甘い考えじゃ、現実は変えられないでしょう。
女性がキャリアを築くなら、「ダメな旦那が家事をやる」か、旦那も上を目指すというなら「家事育児はアウトソース」。そういうふうに、世間全体が意識を変えることが重要です。なのにいまだ、主夫やアウトソースには批判が絶えません。大切な変革時期に、いつまでも、「欧米幻想」で目を曇らせていては、日本にも企業にも女性にも明日はないでしょう。
撮影=的野弘路