4人とも、管理職になりたい、上に行きたいと口をそろえました。そんな意識の高い彼女たちでさえ、日本で管理職になることの難しさを感じている様子。
女性管理職を増やすには、何が必要なのでしょうか。
佐々木さん/金融機関勤務。法人営業を担当。2年前に出産した後、半年で復帰。1児の母。部長を目指してまい進中。
松崎さん/金融機関勤務。20代とまだ若いが、デキる上司の転職に伴い自身もベンチャーから転職。
岡村さん/材料メーカーの研究職。おしとやかな外見でオヤジ受けするが、同期の男性からの嫉妬が悩み。
キャリア女性のための転職サイト「ビズリーチ・ウーマン」の協力を得て4人の方にご参加いただきました。
【佐々木】私は金融機関で法人営業を担当しているのですが、女性の部長クラスはバックオフィス(管理部門)にしか見当たりませんね。
【松崎】私も同じく金融機関勤務。(客と接する)フロント部門の女性管理職は、海外オフィスにちらほらいるくらいですね。
【岡村】私は材料メーカーの研究職ですが、女性研究者自体がレア。
【伊藤】私は役所勤務なのですが、「女性活用、女性活用」と言っているわりに、女性管理職が信じられないほどいない(笑)。管理職はこの高校、あの大学を出た男性と相場が決まっています。でも、私は正直、上に行きたい。
【松崎】私もです。
【岡村】もちろん、私も。
【佐々木】当然(笑)。なぜって、管理職に上がれば、自分でスケジュールを組み立てられるから、私のような子持ちでも仕事と家庭を両立しやすい。でも、部長になるには、実績だけではなく、各支店や本社からのサポートがなくては駄目。だからあと10年は、課長で修業するしかないな、と。
【岡村】そう。上に行くには、自分を引き上げてくれる人が必要。
【伊藤】そんな人います?(笑)ウチは基本、年功序列で着実に昇進する人はするから、わざわざそんなリスクを負う人はいません。
【岡村】私も会社が古い体質なので、「こんなキツい仕事女性に任せられない」って、特別扱いをしてくれちゃう。一方で、同世代の男性は、特別にデキる女性以外、管理職として認めたくないという姿勢。会議でちょっと「その仕事、私がやります」とか言うと「しゃしゃり出て」とか言われちゃう。
【伊藤】会議中、男性ならそれほど反対されないことでも、女性が言うと「生意気だ」ってなりがち。
【佐々木】私はそういうのには仕返ししますけどね(笑)。客観的事実を提示して、「こうおっしゃいましたけど、調べたらこうなっていました。違っていたら、教えてください」なんて嫌みの倍返し。
【松崎】そうこなくっちゃ。そのくらい女性は、周りから頭一つ出ないと男性と同じ土俵に立てない。そのうえ、女性は人柄や容姿まで要求されるでしょ。
【伊藤】ですよね。女性は、仕事は男並みあるいはそれ以上、そのうえ、見た目やしゃべり方には「女らしさ」を求められてしまう。
【佐々木】こと見た目に関しては、女性上司のほうが怖い(笑)。「今日のスカート、短すぎるんじゃない?」なんて言われてしまう。
【松崎】私はそれが納得いきません。男性は部署ごとに自然と派閥に属して、そこでいい仕事をすれば上が引っ張ってくれる。でも、女性は男性の派閥には入れず、女性同士のつながりに限定される。
【佐々木】ウチにも「女性派閥」がありますよ。私を最下層に、子どもの年齢順でエラさが決まる派閥が(笑)。あまり関わりたくないんですけどね。
【伊藤】かといって男性と群れていると女性陣に疎まれるから常に「八方美人」でなくちゃいけない。
【岡村】そのうえ、「男並み」に働こうと思ったら、男以上に長時間働かないと追いつけない。
【佐々木】私も独身の時は、1日16時間くらい平気で働いていました。今でも、帰宅後、授乳中や子どもを寝かしつけた後にパジャマ姿で深夜1時、2時まで働いていますけどね。ワーママ社員には、ランチ抜きで頑張る人も珍しくない。
【伊藤】大変! でも、女性はここまでやっても、いざ出世すると「このご時世、女性だから昇進できた」なんて言われちゃう。
【岡村】「げたを履かされてる」ってね。でも、私はたとえげたを履いてでも昇進したが勝ちだと思う。役割が人をつくる側面は大きい。
【佐々木】女性は将来、頑張っていれば自然と上に行けると思う。だって、男性は敵とすぐ戦っちゃうけど、女性はフレキシブルでしょ。この変化の時代、柔軟な女性のほうが適応力があるもの。
【一同】同感です!
■雇用ジャーナリスト海老原嗣生さんから
「安倍さんへ」
日本にも変化の胎動は感じます。賃金構造基本統計調査のサンプル数で見ると、従業員1000人以上の大企業でも女性の係長比率は2割に近づきました。30年前は3%に届かなかったので、小さいながらも大変化ですね。年功序列型の昇進体系からすれば、5年遅れで課長も2割が見えてくるでしょう。
ただ複雑です。欧米諸国が「女性比率3割」と言うときの管理職には、店長や現場リーダーが含まれます。彼女らはエリートコースとはいえません。エリートコースたる経営管理職群になると女性比率は落ちる。各国でクオータが騒がれる役員層クラスになると英独仏でも1割程度。欧米で女性が昇進しているというのは、「現場リーダー」クラスが多数なのです。
いや、役員が1割近くもいるのだから、経営管理コースでも女性は日本よりはるかに多いのは事実です。でもそんなふうに昇進していく女性たちは、長期間の育休をとったり、短時間勤務をしていません。フランスの経営管理コースであるカードルでは、8割以上の女性が「家族との時間がとれない」と嘆いています。恒常的に日曜日も労働している比率はなんと7割。それを可能にするのがテレワークで、結果、24時間仕事から逃れられなくなった、なんて調査もあります。
つまり、上を目指すならバリバリ働き、家事育児はアウトソースするか、ダメな旦那に任せる。反対に、現場リーダークラスで終わるなら家事も育児もできて余暇も充実。それが世界の常識なのに、日本には誤って伝わり、欧米では余暇充実で皆が出世していると考えてしまう。そんな甘い考えじゃ、現実は変えられないでしょう。
女性がキャリアを築くなら、「ダメな旦那が家事をやる」か、旦那も上を目指すというなら「家事育児はアウトソース」。そういうふうに、世間全体が意識を変えることが重要です。なのにいまだ、主夫やアウトソースには批判が絶えません。大切な変革時期に、いつまでも、「欧米幻想」で目を曇らせていては、日本にも企業にも女性にも明日はないでしょう。