子どもを亡くした親に立ちはだかる大きなカベ
2010年11月、大阪府の藤井真希さんは、自分の通院のために生後5カ月のさつきちゃんを、ファミリー・サポート・センターで紹介された女性宅に1時間だけ預けました。迎えに行ったとき、さつきちゃんは心肺停止状態。搬送された病院で心臓は動いたものの脳死状態となり、退院後は家庭で看護していましたが2013年10月、息をひきとりました。
何が起こったのか、さつきちゃんのために真実を明らかにしたい。同じことが起こらないようにしなければならない。藤井さん夫妻は刑事告訴・民事訴訟に踏み切り、現在、裁判で争っています。
ファミリー・サポート・センターの制度はいわゆる認可外保育であり、公的な保険の適用がありません。その代わりに、預かり手は民間の保険会社の保険に加入しています。
「預かった女性は、最初『うつぶせ寝をさせていた。うつぶせ寝をさせてはいけないとは知らなかった』と私たちに話していました。ところが、あるときから保険会社の弁護士が代理人となり、その女性とは会えなくなってしまいました。事実を確かめたくても話すことはできません。謝罪もいっさいありません」
藤井さんは、保険会社の補償回避のために真実が封じられたと感じています。預かった女性を相手にした裁判も、保険会社の弁護士が代理人となって争うことになりました。
「裁判で争う以上しかたのないことかもしれませんが、さつきの裁判では、被告側代理人弁護士からまったく事実無根の主張が繰り広げられていると感じています。こんなに悔しく苦しいことはありません。子どもを亡くし、事実を知り穏やかに解決されたいというせめてもの願いすら叶えられず、さらなる苦しみを余儀なくされている当事者は、私たちだけではありません」(藤井さん)
現在、国の「教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会」では、認可の保育施設で起こる重大事故について、国への報告を義務づけるとともに、再発防止のために事後の検証を行うしくみをつくることを検討中です(認可外は義務づけまではされていない)。
事後の検証で事実をより正確に把握するためにも、公的保険の整備は役立つはずです。
すべての保育施設等で公的保険が適用されることが理想ですが、せめて認可となった小規模保育、家庭的保育には公的保険が適用されるべきではないか、というのは、この問題を知った多くの人が感じると思います。死亡事故は、3歳未満児でより多く起こっているのです。
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』(集英社新書)、『働くママ&パパの子育て110の知恵』(保育園を考える親の会編、医学通信社)ほか多数。