期待の小規模保育、増えそうな気配
2015年度からの子ども・子育て支援新制度の待機児童対策の目玉として、
(1)幼保一体化:幼稚園が認定こども園になることで、保育所機能をもつようになり、待機児童の受け皿になる。
(2)「認可」の保育制度に、小規模保育、家庭的保育など、3歳未満児を対象とした新たな制度が加わる。
の2つが掲げられてきました。
(1)のほうは、待機児童があふれる都市部では幼稚園も結構満員であるため、今のところ幼稚園が園児獲得のために認定こども園になるということが爆発的に起こる気配は見えません。これに対して、(2)のほうは、この4月には間に合わなくても、今後徐々にふえていきそうです。東京都の認証保育所などが認可を受けて小規模保育や保育所(認可保育園)になったり、保育ママ(従来は認可外)がやはり認可を受けて小規模保育や家庭的保育事業になったりという動きがすでに始まっています。
同じ認可なのに、気になる違い
認可の受け皿が広がるのはうれしいことです。でも、本当に安心できる待機児童対策となっているかどうか、保護者としては要チェックです。
昨年の「新制度で変わる! 保活の常識」(http://president.jp/articles/-/13934)の記事でも書いたように、園庭のない3歳未満児向けの施設ばかりがふえると、3歳以降の保育所などの受け皿が足りるかどうかが心配です。
また、国の制度検討の会議でも議論になったことですが、小規模保育等では有資格者の配置基準が保育所よりも緩いことが子どもの環境にどういう影響を及ぼしていくのかも不安があります。国の会議では、当面は「増やしやすさ」を重視するが、なるべく有資格者を配置するよう施策で誘導することが示されました。保育園を考える親の会の『はじめての保育園』(2014年11月改訂 主婦と生活社)でも、このような制度の違いを比較対照しています。
実は、これらの新しい保育制度には、もうひとつ、あまり知られてこなかった課題があります。事故が起こったときの補償が、保育所と小規模保育等の間で大きく違っているということです。
なぜ公的保険が必要か
現在、保育所(認可保育園)は、小・中学校、高等学校、幼稚園などとともに独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済制度の対象となっています。この制度は公的な保険・補償であり、万一、これらの施設の管理下で子どものケガや死亡事故などが起こった場合には、施設側の過失の有無にかかわらず給付がおります。保育園・幼稚園や学校で子どもがケガをして、治療費についてこの給付を受けた経験がある人はたくさんいるはずです。
今回、新しく認可の仲間入りをした小規模保育や家庭的保育についても、この公的保険の対象となるのかと思いきや、そうはならない見通しになっています。同じ認可になるのになぜだろうと関係者は首を傾げています。
学校のための制度(文部科学省管轄)だから? 基準が低いから事故発生率を心配しているのか? など、私のまわりではいろいろな憶測も飛んでいます。
小規模保育・家庭的保育などを対象とした民間の保険も開発されていますが、日本スポーツ振興センターの災害共済とは大きな違いがあります。
日本スポーツ振興センターの災害共済は、過失の有無や原因を問わず、補償が受けられます。低額な掛け金(子ども1人の掛け金は350円)で、死亡事案で最大2800万円の災害給付金が出るのです。まずは、被害者の救済が優先されているといえます。
しかし、民間の保険の場合はここまではカバーできません。賠償責任保険と傷害保険がセットになっていることが多いのですが、賠償責任保険は、保育者・施設側の過失が立証されなければ補償は受けられず、傷害保険のほうは「外来の事故(偶発的な事故。疾病等は対象外)」でなければ、やはり補償を受けることはできません。保育施設等での事故の多くは第三者から見えないところで起こっており、また死亡事故の約8割は午睡中の事故です。明らかに不自然な事故であっても、これらを明確に立証することが困難になるケースは多いのです。
子どもを亡くした親に立ちはだかる大きなカベ
2010年11月、大阪府の藤井真希さんは、自分の通院のために生後5カ月のさつきちゃんを、ファミリー・サポート・センターで紹介された女性宅に1時間だけ預けました。迎えに行ったとき、さつきちゃんは心肺停止状態。搬送された病院で心臓は動いたものの脳死状態となり、退院後は家庭で看護していましたが2013年10月、息をひきとりました。
何が起こったのか、さつきちゃんのために真実を明らかにしたい。同じことが起こらないようにしなければならない。藤井さん夫妻は刑事告訴・民事訴訟に踏み切り、現在、裁判で争っています。
ファミリー・サポート・センターの制度はいわゆる認可外保育であり、公的な保険の適用がありません。その代わりに、預かり手は民間の保険会社の保険に加入しています。
「預かった女性は、最初『うつぶせ寝をさせていた。うつぶせ寝をさせてはいけないとは知らなかった』と私たちに話していました。ところが、あるときから保険会社の弁護士が代理人となり、その女性とは会えなくなってしまいました。事実を確かめたくても話すことはできません。謝罪もいっさいありません」
藤井さんは、保険会社の補償回避のために真実が封じられたと感じています。預かった女性を相手にした裁判も、保険会社の弁護士が代理人となって争うことになりました。
「裁判で争う以上しかたのないことかもしれませんが、さつきの裁判では、被告側代理人弁護士からまったく事実無根の主張が繰り広げられていると感じています。こんなに悔しく苦しいことはありません。子どもを亡くし、事実を知り穏やかに解決されたいというせめてもの願いすら叶えられず、さらなる苦しみを余儀なくされている当事者は、私たちだけではありません」(藤井さん)
現在、国の「教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会」では、認可の保育施設で起こる重大事故について、国への報告を義務づけるとともに、再発防止のために事後の検証を行うしくみをつくることを検討中です(認可外は義務づけまではされていない)。
事後の検証で事実をより正確に把握するためにも、公的保険の整備は役立つはずです。
すべての保育施設等で公的保険が適用されることが理想ですが、せめて認可となった小規模保育、家庭的保育には公的保険が適用されるべきではないか、というのは、この問題を知った多くの人が感じると思います。死亡事故は、3歳未満児でより多く起こっているのです。
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』(集英社新書)、『働くママ&パパの子育て110の知恵』(保育園を考える親の会編、医学通信社)ほか多数。