命をかけて書き続ける人たち
記者として醍醐味が味わえる場面に立ち合え、忙しい毎日でした。でも自分の力量に不安を感じていました。取材で回っていると「アメリカはどうなの?」「海外ではどうなっているの?」と逆に尋ねられることも多く、満足に答えられませんでした。知識や経験が不足している、との思いが募っていきました。そんなとき「ニーマンフェロー」で留学するチャンスを得ました。
これは7~8年のキャリアを持つ中堅ジャーナリストを対象にした学習プログラムです。習うだけでなく、自らも経験や知識を伝える双方向性が特徴です。全米から12人、米国以外の国から12人が選ばれてボストンのハーバード大学で学びます。
2000年から2001年の1年間、世界のジャーナリストたちが何を考えているか、どんな仕事をしているかをお互いにシェアする機会に恵まれました。内戦下からやってきたボスニア人のジャーナリストは「対戦しているセルビア人にもいい人間はいる」と書いて、銃を突きつけられたといいます。コロンビアのジャーナリストは麻薬の売買を牛耳るマフィアと腐敗した政権の間で命をかけて書き続けている人でした。コロンビアは殺されたジャーナリストが最も多い国です。
命の危険を冒しながら書く意義を語るジャーナリストたちを前に、「私なんてまだまだだな」と思ったものです。
ニーマンフェローから日本に戻り、デスクに就くのですが、2004年、人生のすべてを変える出来事が起きました。出産です。想像を絶する状況が待っていました。
大下明文=構成 的野弘路=撮影