子分の粗相は大きな痛手

ああ、この会社は役職で相手を呼ぶことで敬意を示さなければならなかったのですね……。僕はようやく理解しました。この場は、3人の店長たちの力関係を再構成するために設けられたのでした。

近隣の店舗とは、SV(スーパーバイザー)の管轄下で商品や人員を融通し合う仲間でありながら、常に比較されるライバル関係でもあります。ただし、格下の店長は格上の店長に遠慮しなければなりません。遠慮していると業績は上がらず、いつまで経っても格下のまま。下手をすると平社員に戻されます。

僕の店長であるキウチさんはベテラン社員ながらも社内で人望が薄く、後輩社員であるSVや店長から疎んじられていました。彼らは結託してキウチさんの粗を探し、自分たちの立場を有利にしようと考えたようです。そこに僕が遅刻&「さん」付け。カモネギです。

このささやかなケースで、男社会の2つのルールが観察されます。1つは、「子分の出来不出来は親分の面子に関わる」です。課員が業績を上げると課長が褒められる、といった公式な人事評価ではありませんよ。もっと不定形かつ生活全般にわたるものです。会社の外での振る舞いであろうとも、子分が粗相をしたら親分の面子がつぶれてしまうのです。面子がつぶれると自他に対する「勢い」が減るため、仕事面でも大いにダメージを受けます。

もう1つのルールは、「微妙なマナーで上下関係を確かめ合う」です。居酒屋での待ち合わせに5分ぐらい遅れられても実質的な損はほとんどありません。飲みたければ先に飲めばいいだけですよね。しかし、わずかな時間でも待たされたほうは立場を傷つけられてしまいます。年齢や年次、役職などで目下の者は、目上の人よりも1分でもいいので先に到着して「お待ちする」姿勢を示さなければなりません。たまに、嫌がらせのように10分前に店に着いておいて5分前に来た目下の者を恐縮させたがる人もいるので注意しましょう。