「ここで泣いていいですか」被害者からの言葉

「家族の前でも、だれの前でも泣けない。だからここで泣いていいですか」と言われ、そっと被害者の方の肩に手をおいたことがあります。また、「あなたがいたから頑張れた」との言葉をもらえたこともあります。

同性だからこそできる、被害者に寄り添いながらの捜査が、被害者の心の支えに繋がっていったとき、仕事にやりがいを感じるのです。この仕事は私の天職だと思っています。

思えば私が捜査第一課にいた平成10年前後は、性犯罪の被害者への対応が変化する過渡期でした。まだ裁判の起訴状では女性の名前が読み上げられている時代で、それがどれほど被害者の方々にとって苦痛だったかを、私たち女性捜査員はよく知っていました。だから、公判の度に名前を秘匿して欲しいという申し入れを続けました。「その必要性は何ですか」と言う検事さんに、「もしあなたの娘さんが被害者だったらどう思いますか」と問い掛けたのです。

その後世論やマスコミでもこの状況が問題視され始め、いまでは公判で被害者の名前が呼ばれることはなくなりました。刑事訴訟法も被害者の思いを受け止める方向に変わってきましたし、当時を考えると隔世の感があります。声を大きくあげて訴えてきて良かったと感じています。あと2年で定年を迎えますが、そうした改革の流れに少しでも力を貸すことができたと思い、自分の警察人生に悔いはないと感じます。