※本稿は、丹羽宇一郎『生き方の哲学』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
出世を目標にしても出世はできない
「出世競争」という言葉があるように、ひと昔前は「サラリーマンの目標は出世や昇進」とよく言われました。
出世や昇進すると、役職手当・職責手当が支給され、給料は上がります。ただし、その分、部下を持ち、責任は重くなります。管理職になれば、多くの会社では残業代の支給がなくなります。
そのためか、最近は「出世したくない」という会社員が増えているようです。
といっても、エラくなりたいと言いたいときはあるでしょう。
しかし「おれは社長になるぞ」と言って社長になった人はいないし、「おれは部長になるぞ」と言って部長になった人もいません。
要するに、出世することを目標にして出世した人はいない、ということです。もちろん、すべてに「まったくいない」ではなく、「ほとんどいない」と読んでください。声に出してそれを実行する人は「いない」ということです。
取引先からの「大したものだ」が出世のカギ
では、どういう人が出世するのか。
懸命に仕事をする人です。
懸命に仕事をして、周囲の人が、「あの人は大したものだ。しっかりしてるよ」とうわさする。
社外の取引業者の人たちからも、「おたくの○○さんはすごいね。言われたこときちっとやってくるね」という評判がたてば、その人の出世はほぼ間違いありません。
ところで、社長の絶対的な責務の一つは「後継者を育てる」ことです。優れた後継者を見極める必要があります。10年以上にわたり、自分こそが最高の社長であり後継者はいないと自負し、自惚れ、後継社長を育成できない社長が目につくようになりました。
未来の社長候補をどう選び、育てるか。社長の最大の仕事です。私の場合、大事な判断材料の一つにしたのは、業界における評判でした。
「おたくの業界では、うちの会社で誰がいちばん頑張っていると思いますか」
普通の会話の最中にそう尋ねて、そこでもしも名前が挙がれば、その人は有力候補として○が付くことになります。
あとは、自分が期待されているということを当人に自覚させることです。
「自分は期待されている。期待に応えて人一倍、勉強しなくては。競争相手の会社の同年代よりもしっかりしていると納得してもらうようにしなければいけない」
そういう自覚を持たせるのです。
「新エリート主義」と呼ぶ私の人材発掘・育成法です。