高年収世帯は自由が丘を選ぶのか?
仮に、中流層が自由が丘を「住みたい街」として認識できないほど経済的な格差が広がっているとして、富裕層にとっての「遊びに行って楽しい街」「おしゃれな街」としてのプレゼンスを維持していくことは可能なのだろうか。
実際、自由が丘といえば路面店が多く、有名アパレル・雑貨店も軒を連ねるし、世界的に有名なスイーツ店も存在する。相対的に見れば、これらの有名店が販売する商品の価格はお高めなわけだが、今の高年収層にとっても、これらの店を歩く楽しさを街として訴求できているのだろうか。
江原氏は、「自由が丘の絶対的な人気が落ちた」という表現は正しくない、いまだに一定層には人気だ、と断った上で、富裕層が買い物に求める体験そのものが変化してきている、と分析する。
「共働き世帯が増加し、買い物におけるタイパ意識が強まってきている。2000年代から、豊洲などの湾岸エリアや六本木・虎ノ門など、都心の各所でタワーマンションの建設ラッシュが続いた。これらのエリアのタワマンに住む住民にとっては、『(住処の近くにある)1つのビルの中で、あらゆる目的の買い物が完結する』という買い物体験が非常に魅力的だ」
「共働きが多い現役世代にとって、時間はお金と同じくらい重要。特に、仕事と育児に追われる子育て層にとって、貴重な休日に路面店をいくつも歩き回るより、買い物の目的を最短で達成できる方が合理的。さらに、子どもが遊べる広場や室内の遊戯施設があれば、急な雨にも対応しやすく親としてはありがたい」(江原氏)
確かに、自由が丘には、子どもが遊べるスペースがあって、ドラッグストアがあって、雑貨屋があって、食品スーパーがあって……という施設は少ない。路面店が売りの地域だし、それが故に今回、ビル内で買い物が完結できるミューズスクエアを開業した、という経緯もあるだろう。
世帯年収2000万円超でもファストファッション
それに付け加え、江原氏は今の高年収層に特徴的なのは、買い物行動そのものも、一般的な家庭と同じような動向を示している、と指摘する。
「世帯年収2000万円を超え、港区に住むような現役世代も、食品は低価格を打ち出すスーパーで買うし、ECサイトのポイントも貯める。子どもの衣服もファストファッションだ。異なる点があるとすれば、ワンポイントで豊かな消費をすること。旅行の際に高いホテルを選ぶとか、特別な日には子どもにブランドものの可愛い服を着せてあげようとか。地に足をつけながら、ここぞというときに惜しみなくお金を使う、ということだ」(江原氏)
今の富裕層に「私は富裕層である、ゆえに文化的にステータスの高い消費行動しか取らない」という自意識はほとんどないということなのだろう。かつて自由が丘を支えていた有閑マダムのような消費様式は、普段着としてユニクロを重宝する現代の高年収世帯にとって必ずしも理想とは映らないのかもしれない。