コスパが高い「貧乏人の寿司」
ゼンショーの戦略の出発点は、価格戦略だろう。はま寿司は低価格帯を重視している。メインのメニューは8元(1元=約23円で約184円)から10元(約230円)、高価格帯でも28元(約644円)程度だ。客単価は約87元で、現地の同業他社を3割弱、下回るようである。
中国の景気減速が鮮明な中で価格の低さ、つまりコスパの高さは消費者心理を刺激した。節約志向の強い若者などは自虐を込め、スシローやはま寿司など、日系の低価格回転寿司を「穷鬼寿司(貧乏人の寿司)」と呼び始めたようだ。こうした呼び名がSNSで広がり、ブランド認知度を一気に押し上げたとみられる。
ゼンショーは「訴求」の段階で、はま寿司を「高級和食の平替(平价替代、手頃な価格の代替品)」と位置付けた。はま寿司は手ごろな価格で、中国企業が運営する格安寿司チェーンとは違う、本物の寿司を楽しめる満足感を提供した。
また、冷たい料理を約7割、温かい料理を約3割とし、火鍋や炙りブリュレなど中国の人が好む商品をそろえる戦略も奏功した。こうした寿司以外のメニューは、若い女性客の獲得にもつながったとされる。
気軽に「一人回転寿司」できる工夫
店を探す「調査」の段階で、多くの人は、はま寿司の値段の手ごろさやメニューの豊富さをSNSなどで確認しただろう。行列を見て、自分も行ってみたいと思う人も増えたとみられる。
そして「行動」の段階で、ゼンショーは気軽さを重視した。タブレット注文と専用レーンでの高速配膳はもちろん、高い仕切りの一人用カウンターも用意した。人付き合いが苦手な若者でも、一人で気兼ねなく来店できる空間を提供したのである。
「推奨」の段階では、SNSへの投稿を促す環境を整備した。カプセルトイや注文時のアニメ演出が人気を博し、グッズ集めや来店の「打卡(チェックイン)」を投稿する人も多い。若者の中には、自ら「滨門弟子(はま寿司門下生)」を名乗る人もいるようだ。
ゼンショーは、日本産に頼らない食材調達体制も構築した。福建省の海産物、山東省のフォアグラ、ロシア産の魚などを調達しているようだ。これは、中国による日本産水産物の輸入停止や、日中の政治問題への対応の一種だろう。

