父親を見返してやりたくて

ところで、その頃、スタッフとの対話を続けるなかで、はっとさせられたことが一つありました。

あるとき若い女性のスタッフに「高木さんって女性の部下を持ったことがありますか?」と聞かれたんです。思えば、本社時代の私の部下は男性ばかりで、「あ、初めてや」と。彼女が「そうだと思いました」と言うのを聞いて、うーんと考えさせられました。

確かにP&Gという会社には仕事本位で人を評価する文化があって、男女の区別を意識することはありません。でも振り返ってみれば、私自身の中には「自分は女だから」という思いがどこかにあったんですね。

だから、本社にいたときはどこか余裕がなかった。上司が「こんな仕事があるけど」と言えば、すぐに「はい、やります」と言ってきたし、自分から率先して仕事を取ってくることに必死になっていました。これもやりました、あれもやりました、と人の倍の仕事をしないと、認めてもらえないんじゃないかと感じていたんです。

私には兄がいるのですが、父親がとにかく昔気質な人でしてね。兄には「勉強して、良い大学に行け」と言う一方、私は「おまえは勉強せんでもええ。素敵な人を見つけて、結婚して子供を産むのが幸せだぞ」と育てられてきたんです。そんな家庭環境も影響しているのでしょう、父親を見返してやりたくて、就職してからは「女でもこれだけ仕事ができるんだぞ」っていうのを見せたいと思ってずっとがんばってきたところがありました。

でも、そういう私自身の仕事に対する思いが、ときとして周りにはバリアを張っているように見えるのかもしれないな、と彼女と話しながら強く感じたんです。