「BAN祭り」と呼ばれる現象

「非属人YouTube」の運営者たちを取材していた2026年1月下旬から2月にかけて、彼らの「悲鳴」が聞こえてきた。YouTube側によって大量のチャンネルが広告収益を止められたのだ。界隈では、大手パンメーカーによる販売促進キャンペーン「春のパンまつり」をもじって、「BAN(禁止)祭り」とも呼ばれる現象だ。

取材していた政治系や「嫌中」系のチャンネル運営者たちはいずれも、この時期に広告収益を停止されていた。

実はこのとき、YouTube側が動画やジャンルの「内容」をどれだけ問題視したかは、はっきりしていない。多くのチャンネル運営者らの元に届いたメールに書かれていた理由は、「視聴回数を増やすことのみを目的として大量生産されたコンテンツや繰り返しの多いコンテンツ」と判断されたということだった。

グーグル日本法人は取材に対し、「こういったコンテンツはこれまでも収益化の対象外だった」などと答え、理由を明確にはしなかった。しかし、公式発表からは、背景に「AIスロップ」と呼ばれるコンテンツの蔓延があったと推測できる。

スロップ(slop)とは、「泥」や「ぬかるみ」を意味する英語だ。豚に餌として与える残飯といった意味でも使われ、現代では極めて低品質のAIコンテンツを単に「スロップ」と呼ぶ。生成AIの急速な発展に伴って新たな意味が与えられ、アメリカの由緒ある辞書メリアム・ウェブスターや英誌エコノミストなどが、2025年の「今年の言葉」に選んだ。

AIスロップのスタンプ
写真=iStock.com/Onidji
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ユーザーに食べさせる“残飯”コンテンツ

スロップの例は、「擬人化された女性のトマトが、男性のバナナと不倫して、夫のトマトに問い詰められる」といった支離滅裂な動画や、架空の爆発や災害のショート動画があげられる。ユーザーの関心を釘付けにして収益を得ることだけを目的にしているとみられ、まさにユーザーに食べさせる「残飯」だ。

有力紙ニューヨーク・タイムズやケーブルテレビHBOといったアメリカの大手メディアはスロップを批判的に取り上げる記事や番組を配信。カリフォルニア州の映像関連会社Kapwingが2025年11月に公表した調査によると、YouTubeのアルゴリズムが新規の視聴者にお薦めする500本の動画のうち2割がスロップだった。

アメリカやスペイン、韓国などのスロップに特化したチャンネルは300万~600万人近い登録者もおり、収益は推定で1チャンネルあたり最大で400万ドル(6億円超)にものぼるという。

広告に関するニュースに特化したネットメディア「the Current」は2025年9月時点で、AI製のように見えるコンテンツにつけられた広告は「信頼度が下がりやすい」とする統計を引き、スロップの氾濫に対する広告業界内の懸念を伝える記事を配信した。

こうした風潮を受け、YouTubeのニール・モーハンCEOは2026年1月、年次書簡でスロップ対策を「優先事項」にすると公表した。「低品質なコンテンツへの懸念が高まっている」「視聴者が心地よく時間を過ごせる場所であり続けるよう努める」などとして、「質の低いAIコンテンツの蔓延を防ぐ」とした。