乗り物大好き少女

私がパイロットという仕事を志したのは、高校時代に進路を決めるときでした。

実は小さい頃から乗り物に興味があって、父親が作ったプラモデルで遊ぶのが好きだったんです。新幹線に乗るのも好きだったし、夜の道路を走っている黄色い清掃車みたいな「働く車」を見るのも好き。

中でも、2歳半のころに飛行機に初めて乗った際に見た、窓の下にモコモコとした雲が広がっているあの光景は、忘れられないものでした。だから中学時代には友達を誘って、実家のある八王子から横田基地の基地祭に遊びに行ったりしていたんですよ。

本を買って調べてみると、日本でパイロットになるためには3つの方法があることがわかりました。1つは航空大学校を卒業すること、次に航空会社の自社養成、最後に自衛隊に入隊することです。

日本でダメなら海外に行けばいい

そこでそれぞれの場所に問い合わせたのですが、航空大学校は入学規定にある身長に8cm足らず、航空会社と自衛隊は「女性の採用は行っていない」と断られてしまいました。

「女だからダメだ」と言われてしまえば、どうしようもありません。

ただ、日本は女性の社会進出が遅れている国だというイメージがあったので、なんとなくそういうことになるんじゃないか、という気持ちは最初からありました。なので、日本でパイロットになれないなら、いずれ外国に行こうと割とすんなりと思いきることができたんです。

それにはまず飛行機の操縦を経験してみないことには始まらないですから、日本の大学に進学した後、就職活動で必要となるライセンスを取得するためにアメリカに行くことにしたんです。

藤 明里(ふじ・あり)
1968年、東京都出身。国内の大学を卒業後、アメリカで操縦免許を取得。派遣社員として働きながら資金を貯め、採用の機会を待った。1999年、JALエクスプレス入社、2000年より副操縦士として活躍。10年、日本で初めての旅客機の女性機長となる。

構成=稲泉 連 撮影=宇佐美雅浩