脳の正常な反応とストレスの関係

ここで重要なのは、食べ物による快感と、薬物やアルコールによる依存は、強度がまったく違うということです。

図表1をご覧ください。

薬物やアルコールの依存症では、使用量がどんどん増える「耐性」や、やめたときの激しい「禁断症状」が現れ、日常生活に深刻な影響を及ぼします。一方、食べ物の場合、そこまでの強烈な症状は起こりません。

つまり、ポテトチップスが止まらないのは「依存症」ではなく、脳が本来もっている「おいしいものを食べたい」という正常な反応が働いているだけなのです。

ストレスを感じたときに甘いものを食べたくなるのも、脳の防御反応の一つです。糖をとると、脳内で気分を落ち着かせる物質が分泌され、一時的に心が落ち着きます。さらに、糖はストレスホルモンの分泌を抑える働きもあります。

守田和弘『食べたいものを、食べていい 「毎日牛丼」生活も肯定する科学』(光文社)
守田和弘『食べたいものを、食べていい 「毎日牛丼」生活も肯定する科学』(光文社)

つまり、甘いものを食べると、体が「今は戦わなくていいよ」とリラックスモードに切り替わるのです。

だから、ストレスが強いほど、「食べたい」→「食べる」→「安心する」→「また食べたい」→というループに陥りやすくなります。

大切なのは、これは体が自分を守ろうとしている証拠だということです。ストレスという「敵」から身を守るために、体は手っ取り早く安心感を得られる方法(食べること)を選んでいるのです。ただ、このループが習慣化してしまうと、「食べないと落ち着かない」という状態になることもあります。

「体の声」と「脳のごほうび」の見分け方

では、どうすれば「体が本当に必要としている食欲」と「脳がごほうびを求めている食欲」を見分けられるのでしょうか。

一つの目安は、「満たされた感覚があるかどうか」です。

たとえば、運動のあとにしょっぱいおにぎりを食べると、「ああ、これだ」と自然に落ち着く感覚があります。食べ終わったあと、「満足した」「体が喜んでいる」と感じます。これは体が本当に塩分やエネルギーを必要としていたサインです。

一方で、脳がごほうびを求めているときは、どれだけ食べても心が満たされません。食べ終えても「まだ何か欲しい」「もっと食べたい」と感じる。食べているときは「おいしい」と感じても、食べ終わったあとに「食べすぎた」「気持ち悪い」という後悔が残ります。

では、具体的にどう見分ければいいのでしょうか。図表2にまとめてみました。

体の声は具体的で、「塩気が欲しい」「タンパク質が欲しい」といった特定の栄養素を求めています。一方、脳のごほうびは「何でもいいから甘いもの」「とにかく食べたい」と、特定の栄養ではなく「快感」を求めているのです。

もし、食べても食べても満たされないなら、それは食べ物ではなく、心のケアが必要なサインかもしれません。

そんなときは、深呼吸をする、散歩に出る、友人や家族と話す、十分な睡眠をとる、ストレスの原因に向き合うなど、食べること以外の方法で心を満たすことを試してみてください。

【参考文献】
*1 Yeomans,M.R.(2006).Olfactory influences on appetite and satiety in humans. Physiology & Behavior, 87(4),800-804.

守田 和弘(もりた・かずひろ)
実践女子大学教授

実践女子大学教授・博士(農学)。富山県生まれ。静岡大学農学部卒業、筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程修了。富山県農林水産総合技術センター食品研究所、東京医療保健大学を経て現職。2017年日本食品科学工学会奨励賞受賞。専門は食品科学。食の科学を探求しながら、食べる喜びと健康の両立について思考を巡らす。好物は牛丼。