長時間デスクワークする現代人の深刻な問題
そもそも疲労には大きく分けて「生理的疲労」と「病理的疲労」があります。前者は休息によって回復する一過的なもので、後者は慢性疲労症候群のように長期間続く病的な疲労です。私たちが着目し、研究しているのは生理的疲労、そのなかでも「脳で起きる疲労」です。
詳しくは下の図にまとまっていますが、たとえば、スポーツの後や引っ越し作業など、体を動かしたことからくる疲れは「肉体疲労」に分類されます。肉体疲労は筋肉に起因する「筋疲労」ももちろんありますが、筋肉を動かす脳が疲労する場合もあり、これを「中枢疲労」と呼びます。一方、「脳疲労」は、判断力や集中力が低下する「認知疲労」と、脳内の過度な乳酸上昇と関係する「中枢疲労」が重なり合ったもの。この10年で研究が大きく進んでいる分野です。(※)2-5
脳疲労の特徴は「ああ、疲れたな……」という「疲労感」を伴いにくく、本人が疲れていることになかなか気づかないことです。運動・スポーツや肉体労働などによる肉体疲労時には、本人は疲労感を覚えます。疲労には過活動から人間の心身を守る働きがあるのです。ところが、脳疲労ではこの警告システムが働かず、気付かぬうちに判断力が低下する。これはパソコンやスマホに向かって長時間働く多くの現代人にとって重要な問題です。
実際の疲れと疲れの自覚は1時間ズレていた
脳疲労の疲労感のなさについて、私たち研究チームはeスポーツ選手に3時間続けてバーチャルサッカーゲームをプレーしてもらう実験を行いました。(※)6
座ったままで肉体的な疲労度は低いものの、瞬時の判断をくり返すために認知的な負荷は大きいのがeスポーツ。そこで、プレー中の選手たちに定期的に「どれくらい疲れを感じるか」を聞き、同時に画面上に表示される矢印の向きを判断するフランカー課題と呼ばれる認知テストを行いました。
結果、2時間経過した時点で選手本人が感じている疲労感の値はほとんど上昇しなかったのです。ところが、判断速度は明らかに落ちていた。脳疲労では疲れを自覚しにくいので、自分の認知や判断の機能が低下していることを感じ取る力も落ちていくと考えられます。疲れているのにその実感がなく「大丈夫、大丈夫」と言いながら、ミスが増えていく。日常生活に当てはめて考えると、これはなかなか危険な状態ですよね。

