新幹線車両用の“失敗作”を転用へ

アデランスのストッパー開発の歴史は長い。実に1976年からだ。その後も改良を重ねてきたが、転機となったのは、異業種の技術との出会いだった。

「改良のヒントになったのは、鉄道車両向けフィルターを手がけていたメーカーの“失敗作”だったんです。新幹線車内の蛍光灯の中に虫が入らないようにするフィルターで、その試作品でした。複雑な構造の網なので、見事に髪の毛に引っかかる。ちょうど人毛との相性が良かったんですね」

“異業種技術との出会い”で生まれたストッパー「クイックタッチ」
撮影=プレジデントオンライン編集部
“異業種技術との出会い”で生まれたストッパー「クイックタッチ」

それを改良し、ウィッグのストッパーとして転用したのだ。こうしてベースも、人工毛髪も、ストッパーも、何十年も研究を続けて進化させてきた。

「完成したオーダーメイド・ウィッグの毛材は、ちょっと長めにできています。それをサロンで理美容師がカットして、スタイリングを施していきます」

なんと、ウィッグは作ったらおしまい、ではなかった。出来上がったウィッグを実際に装着して、ベストな状況になるように調整、カットもするというのだ。しかも、アデランスのサロンのプロの理美容師が、だ。

変身願望を満たしてくれるウィッグ魔法

「ウィッグのカットもしますし、地毛のカットもします。このカット技術が評価されているのもわが社の特色で、それをマスターするための研修はものすごく厳しいです。ただ、どうすれば思うようなスタイリングができるのか、お客さまにしっかり伝えますから、再現性という意味でもとても大事な場になっています」

2025年からは、提携する一般のサロンでウィッグを扱える「サロンクチュール」事業もスタートした。アデランスのサロンでなくても、提携先の理美容室でウィッグを購入したり、アデランスのサポートを受けることが可能になったのだ。

「1枚だけではなく、2枚目が欲しい、色が違うものが欲しい、という声もよく聞きます。女性はやはり新しいものが好きですし、自分が変わるのがやっぱり楽しいんです」

変身願望をウィッグが叶えてくれる、ということか。ウィッグのイメージが、まさに一変した取材だった。男性も、もっとウィッグを楽しんでいいはずだ。すでに女性は、大いに楽しんでいるのだから。

研究開発を続ける川﨑むつみさん(右)と、サブマネージャーの佐藤駿祐さん(左)
撮影=プレジデントオンライン編集部
研究開発を続ける川﨑むつみさん(右)と、サブマネージャーの佐藤駿祐さん(左)
上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター

1966年、兵庫県生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループを経て、94年よりフリーランス。広告、記事、広報物、書籍などを手がける。インタビュー集として、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)、『外資系トップの仕事力』シリーズ(ダイヤモンド社)などがある。2011年より宣伝会議「編集・ライター養成講座」講師。2013年、「上阪徹のブックライター塾」開講。日本文藝家協会会員。