試作完成から大量生産までの難路
「失敗が功を奏したんです。というのも、ナイロンとポリエステルを混合する際に、温度設定を間違えてしまった。しかし出来上がったものを見ると、なんと光沢が消えていたんです。ナイロンの海にポリエステルが島のように浮かんで見えるので、『海島構造』と名づけられました。これによって、ボリューム感も出せて、かつ自然なツヤも実現することができたんです」
この基礎技術ができたのが、佐藤さんが入社する少し前のことだった。これを使って人工毛髪を実際に作り、製品へと仕上げていくことが、佐藤さんのミッションとなった。
「再現性がある技術ではあったんですが、微妙な温度調整が簡単ではありませんでした。温度が少しでも高過ぎるとツヤが出過ぎてしまい、下げ過ぎるとパサパサになってしまう。何度やり直したかわかりません」
埼玉の新座市にある研究所の試作機でようやくうまくいったと思っても、いざ、フィリピンの工場で大規模な生産を試みると、うまくいかなかった。
「湿度や温度などの影響です。日本との気候の違いや、樹脂が入ってから出てくるまでの時間が、試作機と工場では微妙に違ったんです」
やがてコロナ禍に直面。数カ月、フィリピンに缶詰になったこともあった。
「思うような色を作るのも大変でした。指定された色が2、3回でうまく出せることもあれば、50回やっても微妙に違う。商品研究開発部長に見てもらうと、何度もダメ出しが来て。原材料メーカーさんのチップの中身を少しずつ変えてみたり、いろんな取り組みをしていきました」
製品化まで5年をかけた“史上ベスト”商品
こうして生まれたのが、サイバーヘア、バイタルヘアに次ぐ「サイバーエックス」だった。
プレスリリースが出たのは、2022年。佐藤さんは製品化まで実に5年以上にわたって、この人工毛髪と格闘したのだ。そしてついに、勝負に勝った。根元から立ち上がる性質で、少ない本数でも自然なボリュームアップが可能な、アデランス史上、最高の人工毛髪を実現させた。
だが――、アデランスはまだ、満足していない。
「今、取り組んでいるのは、いかにしてさらに地球環境にやさしい人工毛髪ができるか、です。どうしても石油由来のものになりますので。あとは色味を増やしながら、営業担当者にもヒアリングをして、次のステップを目指したいと考えています」
人工毛髪のクオリティがこのレベルまできたことは、需要をさらに底上げすることになった。女性向けウィッグである。しかもその領域は、男性向けとはまた別の進化を遂げていることは意外に知られていない。
1966年、兵庫県生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループを経て、94年よりフリーランス。広告、記事、広報物、書籍などを手がける。インタビュー集として、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)、『外資系トップの仕事力』シリーズ(ダイヤモンド社)などがある。2011年より宣伝会議「編集・ライター養成講座」講師。2013年、「上阪徹のブックライター塾」開講。日本文藝家協会会員。