憲法と合致するかどうかが問われる法改正
もしそうした形で皇室典範を改正するとしたら、旧宮家の男子に「特権」を与えることになる。というのも、天皇や皇族の養子になれば、皇室の一員となり、国費を支給されることになるからである。
そうした改正が実際になされ、養子になる人間が現れたとする。その人間は、女性が皇室に嫁ぐ場合と同じように、戸籍を失い、皇籍に入ることになる。
皇室に女性が嫁ぐというときには、資格や身分はいっさい求められない。実際、戦後には、一般国民のなかから選ばれてきた。美智子上皇后、雅子皇后、紀子妃がそれにあたる。三笠宮寛仁親王妃家の信子妃や高円家の久子妃もそうである。
旧宮家の人々は、皇室を離れてからは一般の国民として生活している。国からいかなる特権も与えられてはいない。皇室と交わりを続けているにしても、それはあくまで親戚としての私的な関係である。
皇室典範も法律の一つであり、それを改正する場合、憲法と合致しているかどうかが問われる。
果たして、憲法第14条に違反しない形で、改正案を作ることができるものなのだろうか。
もしも、違反する可能性のあるような条文となり、それが実際に実現したとしたら、違憲訴訟を起こされることも考えられる。国費が使われるので、一般国民として損害を被ったと主張できるからである。
今、議論するべき皇室典範改正案とは
こうした戦前の身分秩序を引きずったような形での皇室典範の改正は、“歴史上の汚点”となって残り、それは、国民の間の平等を原則としてきた日本社会を根本から歪めることになる。
あるいは、養子案を強く推している保守派の念頭には、むしろ戦前の身分社会に戻したいという隠された意図があるのかもしれない。
そうしたことを回避するために、皇室典範の第9条において、旧宮家の男子に言及することを避け、「天皇や皇族は養子をとることができる。ただ、その場合には皇室会議の議決を経なければならない」とされる可能性もある。
これなら、法律の上で、旧宮家の男子に特権を与えることにはならない。皇室会議には、皇族のほか、三権の長が加わる。そこで議論を行う際に、養子となる人間を旧宮家の男子に絞るのだ。しかしそうしたやり方も、やはり問題になるであろう。
今、議論すべきは別にある。これほどまで問題のある改正案ではなく、世界標準になりつつある「直系長子への皇位継承」を考えるべきときではないだろうか。
放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)、『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)など著書多数。