原資は竹下総理の「ふるさと創生1億円」

じつは、この天守、昭和63年(1988)から平成元年(1989)にかけて、当時の竹下登内閣が各市区町村に、地域振興のためだとして交付した1億円を原資に建てられた。

この「ふるさと創生基金」は、たとえば、高知県中土佐町が純金のカツオをつくり、秋田県仙南村が村営キャバレーをもうけ、兵庫県佐用町が日本一長い滑り台を設置するなど、その使い道が激しく批判された自治体が多かった。そんななか、岐阜県の旧墨俣町は、この天守の総工費7億円の一部に当てたのである。

その内部は歴史資料館として利用されているので、純金のカツオや村営キャバレーよりはマシだといえよう。しかし、すでに述べたように、墨俣一夜城の逸話が史実であろうがなかろうが、ここにあった城は、白亜の天守とは縁もゆかりもない。そもそもモデルとなった大垣城天守は、江戸時代初期に整備されたもので、時代がまったく異なる。

2008年2月29日、墨俣城(左)、2015年2月2日、大垣城(右)
2008年2月29日、墨俣城(左、写真=Hide-sp/CC-BY-SA-2.5/Wikimedia Commons)、2015年2月2日、大垣城(右、写真=MAKIKO OMOKAWA/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

それなのに、現実に白亜の天守が建っていれば、訪れた人の多くが、かつてここにこうした建物が建っていたのだと誤解しかねない。歴史を誤解させるために国の予算が使われたといっても過言ではないだろう。

ここを訪問者は、「墨俣の歴史とこの建物は関係ない」ことを肝に据え、実際に見える景色を打ち消しながら、かつての光景を想像するという、やっかいな作業を強いられる。なんとも罪作りな歴史資料館なのである。

香原 斗志(かはら・とし)
歴史評論家、音楽評論家

神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に『お城の値打ち』(新潮新書)、 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。